経帷子は必ず着せるもの?宗派による違いや着付け方法

ご家族の通夜・葬式準備
経帷子は必ず着せるもの?宗派による違いや着付け方法
経帷子(きょうかたびら)とは、お経が書かれた着物です。仏教徒が亡くなった時に着せる「死装束(しにしょうぞく)」とも呼ばれます。一見すると通常の着物ですが、作り方や着せ方は異なります。本記事では、経帷子の概要や着せる意味に加えて、着せ方、宗派による違いなども紹介します。

経帷子の概要

死者に着せる白い着物が経帷子(きょうかたびら)です。どのようなものなのか、具体的に紹介します。

仏式葬儀における死装束のこと

経帷子は「浄衣(じょうえ)」や「経衣(きょうえ)」とも呼ばれます。仏教のお葬式「仏式葬儀」では、亡くなった人に着せるのがしきたりです。

そもそも帷子(かたびら)とは単衣(ひとえ)で仕立てた着物を指します。薄い生地で、夏用のものが一般的です。これにお経の文字が書かれたものが経帷子と呼ばれるようになりました。素材は白麻が一般的ですが、白木綿が使われる場合もあります。

死者の衣服ではありますが、元気なうちに用意しておく人も少なくありません。早めに準備しておくと長生きできるという言い伝えがあるためです。

経帷子の歴史

経帷子は、お寺でおこなわれる「御身拭い式(おみぬぐいしき)」が起源と言われます。鎌倉時代末期から室町時代の初期にかけて真言宗で始まり、一般庶民に伝わったのは江戸時代後半ごろです。

昔の経帷子は、親戚の女性たちが集まって仕立てていました。現在はそのような習慣は廃れ、葬儀社にお願いするのが一般的です。

経帷子を着せる意味

経帷子は何のために着せるのか、死者に特別な衣服を着用させる意味と、白色である理由について考えます。

故人のための最後の旅支度

仏教の教えでは、亡くなった人はこの世を離れ、仏のいる浄土へ向かうとされます。そしてこれは、「この世からあの世へ旅に出る」ことに例えられました。つまり、経帷子は長い旅路を行く旅人のための、旅装備の1つなのです。

亡くなった人に対し、家族や親族が最後にしてあげられるのは、祈ることだけです。経帷子を故人に着せながら、家族や親族たちは「故人の旅路がやすらかなものであるように」「故人が迷うことなく浄土にたどり着けるように」と祈りました。

「白」である理由は諸説ある

経帷子が黒や赤ではいけない理由については諸説あります。

まず、仏教において白は穢れのない色だからという説です。浄土は、仏教の保護者である仏がいる清浄な場所です。穢れのない色をまとって旅立つのが良いと考えられました。

また、古来より日本では紅白を対として考える習わしがあります。この考えによると、赤は生命誕生の色です。例えば、生まれたばかりの子どもは「赤ちゃん」と呼ばれますね。

一方の白は、赤とは逆の意味、すなわち「死」という意味を持つとされます。亡くなった人に着せるにはふさわしい色だと考えられました。繰り返しますが、諸説あります。

経帷子の作り方・着せ方

経帷子は、作り方や着せ方が通常の着物とは異なります。こちらでは、経帷子の作り方や着せ方を詳しく紹介します。

玉止め・返し縫いをしない

経帷子を作るときは、玉止めや返し縫いをしないのが原則です。糸で作った結び目は、執着に例えられます。玉止めをした着物では、故人がこの世への執着を捨てきれないと考えられました。

一方、返し縫いは故人のやすらかな眠りを妨げると忌避されます。返すという言葉が、故人がこの世に引き返してくることを象徴するためです。また「不幸が繰り返す」として避けるべきとする向きもあります。

この他、「ハサミを使わない」「布は手で割く」「大人数で作る」のが望ましいとも言われています。

襟は「左前」・帯は「縦結び」で着せる

経帷子を着せるときは、襟が左前になるようにします。通常の着方とは反対です。また、帯は縦結びの結び切りにするのが一般的です。というのも、故人が浄土に着く前に帯がほどけては困ります。しっかりと結んで、ほどけないようにしているのです。

通常の着方と反対にする理由についても、諸説あります。

まず、死の世界をこの世とは真逆の世界だとする考えが由来という説。さらに、故人を「高貴な人」として弔おうとした、という説もあります。これはその昔、高貴な人が着物を左前で、庶民が右前で着用していたためです。

また、お釈迦様が入滅(にゅうめつ)したときの着物が左前だったとも言われます。

その他の装飾品も合わせる

経帷子だけでは故人の旅支度は完成しません。死後の旅路で故人が困らないよう、以下の装飾品を合わせるのが一般的です。

・腕、手首、手の甲などを覆う手甲(てっこう)
・脛(すね)を覆う脚絆(きゃはん)
・足袋(たび)・草履(ぞうり)
・日差しや雨から守る編笠(あみがさ)
・死者の正装ともされる三角頭巾(さんかくずきん)、天冠(てんかん)
・首にかける頭陀袋(ずだぶくろ)
・三途の川の渡り賃である六文銭(ろくもんせん)

この他、杖や数珠も入れます。故人が浄土へ向かうときの支えにし、煩悩に負けないようするためです。

宗派による経帷子の違い

経帷子のベースは白い夏用の着物ではありますが、書かれる経文や言葉には宗派による違いが見られます。宗派ごとに紹介します。

真言宗

真言宗の信者は四国八十八ヵ所の霊場を巡る人が少なくありません。そしてその中には、各地の霊場を周りながら白衣に御朱印を押して集める人もいます。御朱印付きの経帷子を死後の旅立ちの折に着用するためです。

多くの場合、真言宗の経帷子には「南無大師遍照金剛(なむたいしへんじょうこんごう)」というお経の文言が書かれています。

日蓮宗

日蓮宗では、故人に十界曼荼羅(じっかいまんだら)を書いた経帷子を着せるのが一般的です。十界曼荼羅とは、日蓮宗のご本尊を指します。この他、お題目である「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」と書かれた経帷子を着用することも。

なお、日蓮宗には「行衣」を日常的に着用する習慣があります。信者の中には、朝夕の勤行(ごんぎょう)や寺の行事などで着用した行衣を、そのまま経帷子として着用する人も多いようです。

浄土真宗

浄土真宗は、「亡くなった人は死後の旅に出る」という発想がありません。すべての人は死後すぐに極楽浄土へ行くとされるためです。

そのため、浄土真宗の信者は死後の旅支度はしません。経帷子を着用する場合でも、左前ではなく右前で着せるのが一般的です。

また、色についても特にこだわりがありません。白を選ぶ必要はなく、故人が愛用していた色付きや柄物の着物を着せる家庭も多いようです。

近年の経帷子(死装束)事情

時代とともに葬儀に対する考え方が変化している今、衣服についての意識も変わっています。こちらでは、近年の経帷子事情を紹介します。

経帷子の代わりに洋服を着用することもある

近年の葬儀では、死装束の形式にとらわれない人が増えており、自由な服装で最後のお別れをしたいと考える人も少なくありません。

しかし、年長者の中には、「昔からの慣習には従うべき」と考える人もいます。

しきたりに従わない場合、まずは年長者に相談することをおすすめします。理解を得られないまま進めてしまうと、お互いにしこりが残るかもしれません。

エンディングドレスという言葉もある

エンディングドレスとは、自分で選ぶ最後の服です。落ち着いた白やピンクのカラーで、オーガンジーやレースがあしらわれています。死後硬直した体でもスムーズに着用できるよう、サイズはゆったり目です。

エンディングドレスを着用することは「自分の好きな服を着てきれいな姿で旅立てる」「闘病後の姿もきれいに見せられる」などのメリットがあります。

もしも故人が自分でエンディングドレスを用意していた場合は、そちらを着用させてあげる方が故人も喜ぶはずです。準備した経帷子は、故人とともに棺の中に収めてあげれば問題ありません。まずは、葬儀社の担当者に相談してみてくださいね。

経帷子は死後にする旅のための服装

経帷子は、故人があの世へ行くための旅支度の1つです。左前で着せたり独特の作り方がされていたりと、通常の着物とは大きく異なります。

近年は宗教観や死生観が多様化し、昔からのしきたりにこだわらない人も増えています。経帷子に関しても選択の余地があるので、死後の服装について家族で話し合ってみてはいかがでしょうか。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当