閻魔大王の正体とは。舌を抜く言い伝えや、本当は優しいという説は本当?

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閻魔大王の正体とは。舌を抜く言い伝えや、本当は優しいという説は本当?

この記事はこんな方におすすめです

閻魔大王の正体を知りたい人
閻魔大王に関する言い伝えや由来について知りたい人
「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」ということわざでも知られる閻魔大王。その存在は一体どのようなもので、いかなる仕事をしているのでしょうか。この記事では、閻魔大王の正体や死者が死後に受ける裁判の内容についてまとめています。死後の世界や死生観のアップデートにお役立てください。

【諸説あり】閻魔大王の正体とは

まずは、閻魔大王(えんまだいおう)の正体を探ってみましょう。仏教で閻魔大王は、死者が天国へ行くか地獄へ行くかを決める10人の裁判官のひとりとされていますが、長い歴史の中でいろいろな活躍をしています。閻魔大王の由来や役割について、ここでは3つのエピソードを紹介します。

1.最初に死んだ人間で冥界の王

閻魔大王は人類史上で初めて死んだ人間とされています。仏教の神様という印象がありますが、そのルーツは古代インドにさかのぼります。古代インドでヤマと呼ばれていた神様を音写し漢字で表現したのが「閻魔」で、これが今おなじみの閻魔大王につながります。
インド最古の聖典「リグ・ヴェーダ」にも、ヤマ(閻魔)は最初に死んだ人間とあります。閻魔大王は死後の世界=冥界を最初に知り、そこから死後の世界を取り締まる「冥界の王」になりました。

2.南の方角の守護天

閻魔大王は、仏教(密教)で世界を守護する神様「十二天(じゅうにてん)」のうちのひとり「焔摩天(えんまてん)」にも関係しています。十二天は東西南北など8つの方角や天地など12箇所を守っており、帝釈天や毘沙門天などがいます。このうち焔摩天は冥界をつかさどり、南方の守り神とされます(曼荼羅によっては北のこともあります)。これもインドの古代神・ヤマが仏教に取り入れられたため、同じような役割と名前になったと考えられています。
人の頭部がついた人頭杖(にんずじょう)と呼ばれる杖をもっており、この杖の頭部で善悪を裁くと伝えられています。

3.地蔵菩薩の化身

日本における閻魔大王は、地獄で人を救う地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の化身であると言われたりもします。仏教学の基本書『望月佛教大辭典(仏教大辞典)』に、「閻魔王は地蔵菩薩」という記述が残っているためです。
地蔵菩薩はこの世でも人を救う存在ですが、仏教がインドから中国に伝わった際に、この世でもあの世でも人を救う存在として地蔵菩薩が閻魔大王と重ねられるようになったと言われています。実際、中国の宋時代の経典にも、地蔵菩薩は閻魔大王であるとの記述が残っています。
これらの思想が日本にも伝わり、閻魔大王は地蔵菩薩と同一視されたり、化身とされたりしているのです。

審判(裁判)の流れと閻魔大王による裁判の内容

死後の世界では、閻魔大王によって審判(裁判)がおこなわれます。死者はどのような道をたどって閻魔大王の元へ行くのかを紹介します。

死者は7日ごとに審判(裁判)を受ける

有名な死後の話のひとつに、人間は死後の世界で10人の王「十王」による裁きを受け、新たにどの世界に生まれ変わるかが決まるという説があります。閻魔大王はこの10人いる裁判官のうちのひとりです。
死後、人は「中陰(ちゅういん)」の状態に入り、あの世とこの世の境をさまよいながら、行き先が決まるまで審判を受け続けます。生前のおこないによって生まれ変わる世界が決まりますが、それを決定する重要な役割を担うのが閻魔大王ら十王です。
中陰は49日間とされており、その間に7日ごと合計7回の裁判を受けます。

閻魔大王による審判(裁判)は5番目

死者への裁判は仏事とつながっています。最初の裁判を担当するのが初七日(しょなのか)にあたる秦広王(しんこうおう)です。これに、二七日(ふたなのか)は初江王(しょこうおう)、三七日(みなのか)は宋帝王(そうていおう)、四七日(よつなのか)は五官王(ごかんおう)と続きます。5番目の五七日(ごなのか)に登場するのが閻魔王(えんまおう)です。亡くなってから35日後の裁判を担当します。
閻魔王の後には、6番目の六七日(むつなのか)に変成王(へんじょうおう)、7番目の四十九日に泰山王(たいざんおう)が待っています。7つの審判を経て死者が死後の「六道※」と呼ばれる6つの世界いずれに行くかを決定します。
※六道・・・地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人道、天道
それでも結論がでなかった場合は、100日目の百箇日(ひゃっかにち)に平等王(びょうどうおう)、一周忌に都市王(としおう)、三回忌に五道転輪王(ごどうてんりんおう)が裁判をおこないます。
5番目と中途半端な位置にあるのに閻魔大王が重要なのは、地獄に落ちそうとなった時に助けてくれる存在だからです。

ちなみに七回忌は阿閦如来(あしゅくにょらい)、十三回忌は大日如来、三十三回忌は虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)です。12~14世紀に十三仏事がおこなわれるようになり、この『十三仏抄』がつくられました。

閻魔大王による審判(裁判)の内容

閻魔大王の元には、「浄玻璃の鏡(じょうはりのかがみ)」という鏡があります。生前のすべての善と悪の行動を映し出すと言われており、嘘をついてもばれてしまいます。死者は閻魔大王の元では嘘をつくことができないようになっているのです。
さらに閻魔大王は人頭杖を使い、死者が天国行きか地獄行きかの判断を下します。裁判の際には、生前中の善悪のおこないがすべて記載された「閻魔帳(えんまちょう)」と呼ばれる帳簿を閻魔大王が読み上げると言われています。

閻魔大王にまつわる疑問

最後に、閻魔大王に関する疑問とその答えをまとめました。「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」ということわざからも、閻魔大王は一般的に怖い存在として知られていますが、実際はどのような神様なのでしょうか。

疑問1.本当にいるのか?

閻魔大王は神様仏様として信仰の対象のため、実在する人物ではありません。古代インドの神ヤマ(閻魔)が中国に伝わり、のちに日本の仏教に組み込まれてよく崇められる神様になりました。地蔵菩薩と同一視されて信仰の対象となったことで知名度も上がっていったと見られています。
京都の六道珍皇寺(ろくどうちんのうじ)には、閻魔大王が実在するかもしれないことを暗に示すエピソードがあります。平安初期の文人に小野篁(おののたかむら)という人がいましたが、昼は朝廷に勤め、夜は閻魔庁で働いていたという伝説があります。珍皇寺には篁が冥界への移動に使っていたという井戸が残されています。篁は閻魔大王にもあっていたかもしれません。

疑問2.本当に舌を抜かれるのか?

「嘘をつくと閻魔さまに舌を抜かれる」ということわざから、閻魔大王は舌を抜く存在であるとされています。これは、平安中期の仏教書『往生要集(おうじょうようしゅう)』で、嘘をついた人は獄卒(ごくそつ)に舌を抜かれると説かれていることに起因します。閻魔大王本人が直接舌を抜くわけではありません。

地獄・餓鬼・畜生などを説いた経典『正法念処経(しょうぼうねんじょきょう)』によると、舌を抜いた後にまた生えてきても、繰り返し抜かれるとか。嘘は生きている内も死んでからもついたらいけませんね。

疑問3.本当は優しいのか?

前述のとおり、閻魔大王は仏教では地蔵菩薩と同一視されています。そのためお地蔵様の優しい慈悲が閻魔大王にもあると考えられています。

仏教聖典を集成した金版大蔵経(かなばんだいぞうきょう)のうちの一巻である『大方広十輪経(だいほうこうじゅうりんきょう)』によると、地蔵菩薩は固い誓願力によっていろいろな姿を現すとされており、閻魔大王の姿にもなれると記されています。
さらに、万一地獄へ落ちそうなときには閻魔大王が助けてくれるかもしれません。「強面だけど優しいのが真実!」と信じたいですね。

疑問4.なぜ顔が赤いのか?

閻魔大王は、死者に裁きを下す罪を背負うため、実は当人も罰せられています。その仕打ちはなんとも辛く、熱されてドロドロに溶けた熱い銅を1日に3回も飲まされるというものです。
閻魔大王の喉や腸はもちろん大火傷。人を裁き苦しみを与えること自体が自身の罪となってしまうため、閻魔大王は顔を真っ赤にして苦しみに耐え抜いているのです。
閻魔大王の赤い顔には、自身の苦しみと、罪人を地獄へと裁く悲しみが現れています。

疑問5.閻魔さまは人々に親しまれていた?

旧暦の1月16日と7月16日に閻魔堂にお参りすることを「閻魔参り」といいます。
江戸〜大正時代にかけては特に閻魔参りが盛んになり、江戸だけでも100ヵ所以上の寺院に閻魔大王が祀られていたと言います。なかでも新宿区の太宗寺(浄土宗)、豊島区の善養寺(天台宗)、杉並区の華徳院(天台宗)は、「江戸三大閻魔」と言われる有名な場所です。
なお、神様を訪ねてさらに大きなご利益得る行為として「七福神めぐり」や「三社参り」などもあります。

閻魔大王は怖いだけではなく仏のような一面も

閻魔大王の裁判では嘘をつくことができず、生前の行動によって天国か地獄行か判断が下されます。命運を握る怖い存在の閻魔大王ですが、地獄に落ちる人々を救う地蔵菩薩の化身であるとも言われます。最後には助けてくれるかもしれませんが、普段から閻魔大王に恥じることのない行動を積み重ねたいものです。