「時宗」はどんな宗教?特徴や葬儀の流れ・マナーを紹介

お葬式のマナー・基礎知識
「時宗」はどんな宗教?特徴や葬儀の流れ・マナーを紹介

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時宗がどんな宗教か気になっている
時宗の特徴や葬儀について知りたい
時宗(じしゅう)とは、鎌倉時代に一遍上人(いっぺんしょうにん)が開いた浄土門の一流です。独自の儀式である踊り念仏は盆踊りのルーツのひとつとされ、『捨てる』ことを大切にするなど、ほかの宗派とは一線を画します。今回は時宗の歴史や特徴をはじめ、葬儀の流れやマナーなどを紹介します。

「時宗」とは?歴史と教えについて

時宗(じしゅう)は、鎌倉時代の1274年に開かれた宗教です。まずは時宗の基礎知識となる、開祖と歴史、教えから見ていきます。

時宗の開祖は一遍上人

時宗は数ある浄土門の一流で、開祖は一遍上人(いっぺんしょうにん)です。1239年、愛媛県松山市の豪族・河野家に、一遍上人は「松寿丸」という名で生を受けました。幼い頃の一遍上人は何不自由のない生活を送っていましたが、10歳で母と死別。それを機に出家し、僧としての修業を始めます。
その後、全国の寺で修業を積んだ一遍上人は弟子と各地を巡り、念仏の大切さを人々に説いて回るように。定地を持たず、遊行上人(ゆぎょうしょうにん)とも呼ばれるようになります。
また、当時1日6回の勤行などを時間交代でおこなっておりこれを務める僧や尼を「時衆(じしゅ、じしゅう)」と呼びました。一遍上人も仲間の僧尼を含めてこう呼んでいたことから、室町時代まで時宗は時衆と表現されていました。現在の“時宗”という宗名になったのは、江戸時代以降のことです。

総本山は神奈川県の清浄光寺

時宗の総本山は、神奈川県藤沢市にある清浄光寺(しょうじょうこうじ)です。1631年、江戸幕府によって時宗総本山と認められました。開祖である一遍上人の遊行上人という別名から、清浄光寺は「遊行寺(ゆぎょうじ)」の名で親しまれています。
清浄光寺の本堂には御本尊である阿弥陀如来坐像が、脇檀には一遍上人らの像が安置されています。清浄光寺は戦火、火災により何度も焼失したものの、その度に復興してきた歴史を持つお寺です。
なお、時宗が最も栄えたのは室町時代あたりのことで、当時は全国に数多くの寺院がありました。清浄光寺が公開している情報では、現在の寺院数は約400ヵ所とのことです。

執着を捨て、念仏を唱えることで極楽浄土への道が開かれる

時宗の教えは“「南無阿弥陀仏」を唱えれば、信仰の有無に関係なく極楽浄土に行ける”というもの。念仏に対する考え方や心構えのひとつの鍵に『捨てる』ことがあります。時宗において、念仏を唱える際は心身ともに執着から離れる、つまり捨てることが大切とされています。
また、開祖である一遍上人は、死を迎えた際に経典以外の書物は念仏を唱えながら焼き払い、自身の著書は一冊も残さなかったそうです。一遍上人の教えは、弟子が『一遍上人縁起絵』『一遍上人語録』などにまとめ、なかでも『一遍聖絵(いっぺんひじりえ)』は国宝に指定されています。

ほかの宗派にはない「時宗」だけの特徴

時宗の大きな特徴は、踊り念仏と呼ばれる儀式の存在と、戒名の付け方が異なる点です。それぞれの内容を解説していきます。

盆踊りのルーツ?「踊り念仏」がある

踊り念仏は、太鼓のリズムに合わせて踊りながら念仏を唱える儀式です。いつしか、その姿からご先祖様を供養するお盆と結びつき、盆踊りの基となったと言われています(諸説あります)。
一遍上人は踊り念仏を広めたとされ、踊り始めたのは長野県佐久市です。現地では「跡部の踊り念仏」として受け継がれており、国の無形重要文化財に指定されました。例年、4月の第1日曜日に佐久市内にある西方寺で「跡部の踊り念仏」が披露されています。
そのほか、藤沢市では夏になると「遊行の盆」が開催されます。直近では2022年8月に清浄光寺でおこなわれ、踊り念仏をはじめとするさまざまな踊りが披露されました。

戒名には「阿」や「弌」の字がよく使われる

時宗の戒名で使われることが多い漢字は、男性と女性で違いがあります。男性は「阿弥陀仏」の「阿」が、女性は「弌(いち)」が用いられやすいようです。

時宗の葬儀│特徴と流れ

宗教宗派に関係なく、葬儀に参列する際は特徴や大まかな流れを把握しておくと安心です。ここでは時宗の葬儀の特徴と、基本的な流れを紹介します。

葬儀の特徴や形式は浄土宗に倣うことが多い

時宗の葬儀は、浄土宗の葬儀形式や作法に倣うことが多いようです。一般的に、踊り念仏の儀式は式次第に含まれません。その代わり、浄土宗の葬儀で見る機会が多い、念仏一会(ねんぶついちえ)と、下炬引導(あこいんどう)という儀式をおこないます。
<念仏一会>
参列者が念仏「南無阿弥陀仏」を10回、またはそれ以上唱える儀式です。念仏によって故人が阿弥陀如来に救われ、極楽浄土に生まれ変わるよう願います。
<下炬引導>
仏門に入り、極楽浄土へと旅立つ故人へ向けて僧侶が引導を渡す、葬儀のメインと言える儀式です。儀式が始まると、僧侶は2本の松明を手に持ちます。煩悩に見立てた1本を先に捨て、残った1本で円を描きながら「下炬の偈(あこのげ)」を読み上げたら、故人の幸せを願いつつ松明を捨てます。
時宗が倣うことの多い浄土宗の葬儀の特徴やマナーは、こちらの記事を参考にしてみてください。

葬儀の流れは3部構成

先述したように、時宗の葬儀は浄土宗に倣うことが多く、流れも同じことが言えます。浄土宗の葬儀は序分(じょぶん)、正宗分(しょうじゅうぶん)、流通分(るずうぶん)の3部構成になっています。式次第は葬儀の内容やお寺によっても異なりますが、基本的な流れは次の通りです。
<序分>
①導師の入場:僧侶を招き入れる
②香の焚き上げ:香で心を清める
③三帰三竟(さんきさんきょう):仏・法・僧への帰依を誓うお経を読む
④奉請(ぶじょう):諸仏の入場を願い求める    
<正宗分>
⑤懺悔:諸仏に対し、生前の罪を懺悔する
⑥作梵(さぼん):梵語の四智讃(しちさん)を唱える
⑦下炬引導:下炬引導文を述べ、念仏を10回唱える
⑧弔辞:弔辞や弔電が読み上げられる
⑨念仏一会:念仏を唱える
<流通分>
⑩回向(えこう):阿弥陀仏の功徳により、極楽浄土への往生を願う
⑪総願偈(そうがんげ):四弘誓願(しぐせいがん)の成就を誓う
⑫三身礼(さんじんらい):阿弥陀仏への帰依を表す
⑬送仏偈(そうぶつげ):招き入れた諸仏を浄土へ送る
⑭退堂:僧侶が退場する

時宗の葬儀│マナーと独自の作法

時宗の葬儀マナーは、特徴や流れと同じく浄土宗に倣います。しかし、時宗ならではの作法もあるので、参列前に把握しておくと間違いがありません。時宗の葬儀におけるマナーと作法を紹介します。

焼香は1~3回を目安におこなう

浄土宗に倣う時宗の葬儀では、焼香の回数に決まりはありません。一般的には、1~3回を目安におこないます。焼香をする際は香を片手でつまんで額に寄せ(押しいただく動作)、香炉の灰に入れます。その後、合掌と一礼を済ませたらうしろに下がるのが基本動作です。当日は、前の人のやり方を見て真似すれば良いので、あまり難しく考えなくて大丈夫です。

数珠(念珠)は2連のものを使用する

時宗の葬儀で使う数珠も浄土宗と同じです。時宗では数珠のことをおもに「念珠(ねんじゅ)」と呼びますが、数珠と言っても構いません。
本式念珠は、先端に2つの房が付いている「二連数珠」を使います。日ごろの念仏の数を数えるときにも使うので「日課念珠」とも呼ばれ、108玉でないのも特徴のひとつです。珠のサイズと数が性別によって異なり、女性用は小粒の「六万浄土」、男性用は大粒の「三万浄土」というものです。数珠は左の手首に2連ともかけるのが正式な持ち方です。合掌をする際は、左手の親指と人差し指の間に数珠を下げます。
なお、時宗の葬儀に参列する際は、浄土宗用の数珠を持つのが理想ではありますが、ない場合はほかの宗派の数珠でもマナー違反にはなりません。

合掌は時宗独自の作法がある

時宗の葬儀は浄土宗に倣うことが多いですが、合掌のやり方は明確に異なります。時宗の合掌は、手を合わせた後に蓮華のつぼみをイメージしつつ、手のひらを少しふくらませるのが特徴です。その姿から、未敷蓮華合掌(みぶれんがっしょう)と呼ばれます。合掌の際は姿勢を正し、肩や手の力を抜きます。

浄土門一流の「時宗」には独自の儀式や作法が存在する

鎌倉時代に浄土門の一流として誕生した、時宗。葬儀の流れやマナーなどは浄土宗に倣うことが多いものの、踊り念仏や未敷蓮華合掌など、独自のものが存在します。葬儀に参列する際は、事前に大まかな流れやマナーを把握しておくと確実です。
また、時宗でも大切にされている『捨てる』は、生き方の再考や終活にもつながってくるかもしれません。興味がある人は、佐久市や藤沢市でおこなわれる踊り念仏を観たり、教えを学びご利益を得るために時宗のお寺を訪ねてみたりするのもよさそうです。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。