存命中に財産を贈る生前贈与とは。節税対策の4大ポイント

終活
存命中に財産を贈る生前贈与とは。節税対策の4大ポイント

この記事はこんな方にオススメです

家族への相続について考えている
節税に関心がある
生前贈与とは、生きているうちに家族や他人へ財産を贈ることです。死後に相続する財産を減らすことで、相続税の節約につながります。この記事では、生前贈与と相続の違いや税金の種類、メリットやデメリットについて解説。さらに、節税の4つのポイントも紹介するので、いざというときの参考にしてください。

節税にもなる?生前贈与とは

存命中に他の誰かに財産を贈る、生前贈与。相続税の対象となる財産を減らすのに役立ちます。ここでは、生前贈与と相続で異なる点や、払うべき税金について説明します。

相続との違いは存命かどうか

生前贈与と相続の違いは、財産を贈る側が存命であるか否か、ということです。存命中、特定の人に自分の財産を贈った場合は、生前贈与に当たります。本人が息を引き取った後に、相続人が財産を承継する場合は、相続と表します。

贈与を受けたら贈与税の支払いが必要

相続によって財産を承継した場合は相続税を納め、生前贈与の場合は贈与税を納めます。ただし、生きている間に財産を引き継げば、控除や特例によって納める税金を節約できる場合があります。次章にて詳しく解説します。

生前贈与の4つのメリット

贈与税に適用される控除や特例を活用すれば、相続税よりも税金を減らせるなど、さまざまな利点があります。ここでは、生前贈与のメリットを解説。財産を次の世代へ贈るための参考にしてみてください。

1.控除や特例を使えば贈与税を節税できる

税金の節約につながる主な生前贈与の金額や方法は、以下の通りです(基本的には受け取る側の金額です)。
  • 暦年贈与:1年間での贈与額が110万円まで課税されない
  • 相続時精算課税制度:累積2,500万円まで課税されない
  • 配偶者への贈与:夫婦間は2,000万円まで控除される
  • 子や孫への教育資金:1,500万円まで課税されない(そのうち学校など以外に支払う金銭は500万円まで)
    ※2023年3月31日までの措置
  • 子や孫への住宅取得資金:一定額まで課税されない(契約の締結日が2021年12月31日までの場合に適用)
  • 結婚・子育て資金の一括贈与:受贈者1人につき1,000万円まで課税されない(そのうち結婚に際して支払う金銭は300万円まで)
    ※2023年3月31日までの措置
配偶者への贈与の場合は、20年以上婚姻関係が続き、居住用不動産(現物)または居住用不動産を取得するための金銭であることが必要です。お金(住宅取得資金)の場合は、贈与を受けた年の1月1日時点に20歳以上であることなど、いくつかの条件があります。この他、併用不可の制度や期間や対象年齢が限定されているものも多いので、事前に条件を確認し、適切な方法を選択してください。

2.相続税を減らせる

生きている間に贈与して財産を減らすと、本人が死去した後の相続税が減らせます。また、贈与税と相続税を足した場合と、本人が亡くなってからすべての財産を一度に相続した場合の相続税を比較すると、前者の方が安くなることが多いです。次の世代の税負担を減らし、少しでも多くの財産を引き継ぐために、生前贈与が役立ちます。

3.贈る相手や時期を自由に選べる

財産を渡す相手が自ら選択できるのも、メリットです。本人が亡くなった後の相続だと、法律で定められた割合で、財産が法定相続人に引き継がれることになります。
遺言状を作成しても、法定相続人が遺留分を主張した場合は、故人の思いとは異なる方向へ進む可能性もあります。そのため、法律の規定とは異なる割合で財産を引き継ぎたいときは、存命中に贈与をした方が希望を叶えやすくなります。もちろん、条件によっては思い通りにならないこともあります。
また、相続は本人が息を引き取るまで発生しないため、いつ財産を渡せるかは不透明です。一方で、生前贈与は、財産を贈るタイミングを自分で定められます。子や孫がたくさんの費用が必要となる人生の節目で、財産の引き継ぎができるため、受け取る側のメリットも大きいです。

4.遺産相続のトラブルを回避できる

故人の死去後は、相続を巡って争いが起きることがありますが、生きているときに財産を引き継げば、本人の意志が尊重されてトラブルを避けやすくなります。ただし、法定相続人が「特別受益の持戻し」を主張して認められた場合、相続額が調整されることもあります。例外事項もあることを念頭に入れ、なるべく円滑に財産の引き継ぎができるように検討することが大切です。

生前贈与の4つのデメリット

存命中の贈与は、デメリットも把握していないと、思わぬ損をする場合があります。ここでは、生前贈与のデメリットについて説明します。

1.税務署に認められないリスクがある

存命中の贈与によって税金を節約するには、金額や対象が定められた条件に合致する必要があります。条件に合わなければ、税務署に控除や特例の適用を認められず、通常通りの贈与税や相続税を払う可能性があるため、要注意。また、追徴課税や延滞税が発生する場合も考えられます。
現金による手渡しや、名義預金(贈与する側が贈与される側の名義で開設した口座に預金をすること)、タンス預金などは、税務署に認められないことがあるので、特に留意してください。

2.贈与税以外の税金が発生する場合がある

不動産を贈るときは、手数料や贈与税以外の税金が生じます。課される税金は、以下の通りです。
  • 登録免許税(登記簿謄本の記載内容を変えるときに発生する税金)
  • 不動産取得税(不動産を取得したときに発生する都道府県税)
他に、登記に関連した費用がかかることも、念頭に入れて検討することをおすすめします。

3.贈与から3年以内の死亡は相続税の対象となる

贈与をしてから、本人が亡くなるまでの期間が3年以内の場合、相続財産として扱われ、相続税が生じることがあります。この規定は、生前贈与加算と呼ばれます。生前贈与加算の対象とならない事項は、以下の通りです。
  • 遺贈や相続の対象ではない人への生前贈与
  • 結婚・子育て資金の一括贈与に関する特例
  • 教育資金の一括贈与に関する特例
  • 住宅取得資金など贈与に関する特例
  • 夫婦の間でおこなう贈与の特例
贈与の時期と特例についても確認を怠らないようにしたいですね。

4.遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)される場合がある

本人が死去した後、生前贈与に不服を持つ法定相続人がいるときは、遺留分(最低限の相続権利)を主張される可能性も否定できません。特に、財産の所有者である被相続人が、死去する1年以内におこなった贈与に関しては、遺留分を主張される可能性が高いです。
なお、2019年の民法改正で同年7月1日以降の相続は「遺留分侵害額請求」が適用されます。それ以前の場合は「遺留分減殺請求」となり、精算方法や贈与期間の算定基準が違います。
生前贈与によるデメリットやトラブルを避けるには、法改正などのポイントを押さえ、相続に関係する人達すべての同意を得ることが大切です。

節税対策として生前贈与をする4つのポイント

上手に生前贈与の制度を利用すれば、税金の節約につながります。最後に、節税対策時のポイントを紹介します。

1.生前贈与の成立要件を満たす

財産を贈る側と贈られる側の意思表示がおこなわれた段階で、生前贈与が成立します。公正な贈与の証拠を残すためには、贈与契約書を作るのがおすすめ。贈与のたびに、契約書を作ると安心です。

2.親や祖父母など贈与する側が元気なうちに始める

財産を贈る側が年齢を重ね、適格な判断ができなくなると、生前贈与の成立要件である「財産を贈ることに対する意思の確認」が難しくなります。また、前述の通り、財産を贈ってから3年以内に本人が死去すると、相続税が課されることも。問題なく財産を贈るには、健康で、明確な意思表示ができるうちに贈与や相続に関する話を始めることをおすすめします。

3.毎年同じ金額を贈与しない

暦年贈与を選択すると、受取人の1年の贈与金額が110万円以下であれば基本的には非課税です。しかし、同じ金額を毎年同じ時期に贈り続けると、定期贈与(連年贈与)として扱われ、課税対象になることがあります。
定額贈与とは、定められた金額を毎年贈ることが事前に決まっている場合を指します。定期贈与にならないよう、贈与のたびに契約書を作ったり、贈るタイミングや額を変えたり、といった工夫が必要です。

4.贈与される人が管理する口座に振り込む

財産を贈るときは、銀行振り込みなどで証拠を残すことが大切です。贈与の証拠を提示できないと、相続財産となり、相続税が発生する可能性があります。特に、現金をそのまま渡すのは、避けた方が無難です。
また、財産を贈る人(祖父母や親)が、財産を受け取る人(子や孫)の名義で開設した口座に入金する名義預金は、祖父母や親の財産と扱われ、相続税の支払い義務が生じる場合が考えられます。財産を受け取る人が作成・管理する口座に、お金を入れるのがおすすめです。

相続と生前贈与の違いを知って、賢く財産を残そう

自分の財産を大切な人の必要な時に使ってもらう、節税につなげて家族に少しでも多くの資産を残すなどの利点がある生前贈与。適切に財産を贈るには、相続との違いや税の仕組みを理解することが重要です。大事な財産を理想に近い形で、身近な人や次の世代に受け継がせられたらいいですね。