孤独死に関わる行旅死亡人〜自分の最期について考える〜
お葬式のマナー・基礎知識
行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは、身元が判明せず、遺体の引き取り手がない死者のことです。その他、遺体の埋葬・火葬をする人がいない場合も同様とみなされます。この記事では、行旅死亡人の詳しい意味や発見後の扱われ方、現代社会における問題点や、自分らしい最期を迎える方法を紹介します。
目次
あまり聞き慣れない「行旅死亡人」とは
日常生活ではあまり見聞きすることのない、行旅死亡人(こうりょしぼうにん)という言葉。しかし、終活をする中で目にするかもしれません。まずは行旅死亡人の詳しい意味と、年間で発見される人数、多い年齢層を紹介します。
法律では「身元が判明しない、引き取り手がない死者」を指す
行旅死亡人の定義は「身元が判明せず、かつ遺体の引き取り手がない死者」です。これは「行旅病人及行旅死亡人取扱法(こうりょびょうにん および こうりょしぼうにん とりあつかいほう)」という法律によって定められています。
「行旅」という言葉から、旅行中に亡くなった人を連想するかもしれません。しかし、実際は事故や病気、孤独死、自殺、他殺など、亡くなったのがどんな状況であっても、戸籍などの身元が判明せず、遺体の引き取り手がない人は、すべて行旅死亡人として扱われます。引取者のない死胎も含まれます。
行旅死亡人の数と年代
行旅死亡人は、国が発行している官報で発表されます。総数は明示されていませんが、ここ数年は年間で600~700ほどの行旅死亡人が発表されている模様です。その内訳を見てみると、70代以降の高齢者が多い一方、推定20代・30代などの若者も少なくありません。
また、一概には言えないものの、親元にいることが一般的である5~9歳、そして10代が行旅死亡人となる可能性は限りなく低いと見られています。
行旅死亡人にまつわる現代の社会問題
現代の日本では、無縁仏と孤独死の増加が社会問題となっています。ここでは、行旅死亡人にまつわる問題点として、無縁仏の増加と孤独死の現状を解説します。
弔う人のいない無縁仏の増加
無縁仏とは、弔ってくれる縁者のいない死者のことです。現在の日本では核家族化が進み、生涯未婚率が高まるなど、家族のカタチが変化しています。親戚関係が希薄になり、子どものいない家庭が増え、墓守りが誰もいない状態は普通に起こりえています。それが、無縁仏の増加にもつながり、社会問題へと発展しています。
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孤独死も増えている現状
行旅死亡人の死因には、孤独死も含まれます。孤独死の意味は、誰にも知られず、ひとりで死ぬことです。年間20,000~30,000人以上の人が孤独死していると見られていますが、国は孤独死の定義をしておらず、実態はつかめていないのが現状です。孤独死の中には身元がはっきりしている人の方が多いですが、この数が増えるほど、行旅死亡人も増加すると考えられるでしょう。
身元の分からない認知症高齢者が亡くなった場合なども行旅死亡人になりえます。
身元の分からない認知症高齢者が亡くなった場合なども行旅死亡人になりえます。
発見された行旅死亡人と遺産の扱われ方
発見された場所がどこであっても、行旅死亡人の扱われ方は全国等しく法律で定められています。ここでは、行旅死亡人と、その人の遺産の扱われ方をお伝えします。
遺体は自治体が火葬をする
行旅死亡人は、生きているときに住んでいた場所に関係なく、死亡地または遺体が発見された土地の自治体が対応します。なぜならば、その土地の市町村長が死体の埋葬もしくは火葬をおこなうと、法律によって義務付けられているためです。
行旅死亡人の遺体は損傷が激しいことが多いため、発見後すぐに火葬されます。遺体の発見から火葬後までの流れは次の通りです。
- 遺体の発見後、警察や行政がその人の身内や親族を探す
- 身元が判明しなかった場合に行旅死亡人となる
- 市町村の保健福祉課などが、警察から遺体を引き取る
- 委託している葬儀社などが遺体の火葬をする
- 市町村が遺骨を保管し、国が発行する官報に公告する
なお、行旅死亡人の遺体を火葬する前に、通夜や葬儀などの儀式はおこなわれません。
火葬後は無縁墓地に納骨される
行旅死亡人の遺骨を保管する期間は定められておらず、各自治体に委ねられています。例えば、札幌市では遺骨の受理後原則2年間です。とはいえ、近年は無縁仏が増加しているため、遺骨の保管年数を短縮する自治体もあるようです。一定期間の保管後、遺骨の引き取り手が現れない場合は、無縁仏として合同墓地等に埋葬されます。
遺産の扱われ方は決まっている
行旅死亡人の所持金や遺産は、火葬の費用に充てられます。所持金がない場合は、自治体が費用を負担するのが通例です。また、行旅死亡人は法定相続人がいない状況であるため、故人の遺産を管理する相続財産管理人を家庭裁判所が選出します。これは、一般的に地域の弁護士が担当することが多いようです。
その後、相続財産管理人が相続人や相続債権者を探したものの、定められた期間中に該当者が見つからない場合、行旅死亡人の遺産は最終的に国庫に帰属します。なお、相続財産管理人による捜索は合計3回で、その都度官報で公告されます。
行旅死亡人を回避する方法
いつか自分がこの世を去るとき、引き取り手がいなくて行旅死亡人になってしまうかも、と恐れる人もいるかもしれません。しかし、生きているうちに対策すれば、これを回避できる可能性も高まります。ここでは、今から始められる行旅死亡人にならないための終活を具体的に解説します。
人とのつながりを大切にする
仮に配偶者や子ども、親戚がいなくても、身近な人と親密な関係性を築くことで看取ってもらえるケースが増える可能性があります。そのため、普段から友人や知人とのつながりを大切にすることが重要です。
国や行政の制度をサービスや制度を利用する
自治体によっては見守り支援の一環として、高齢者の自宅を定期的に訪問し、安否確認をするサービスをおこなっているところもあります。一人暮らしの孤独をやわらげてくれるだけでなく、孤独死も防げます。
また、認知症などの健康不安に備えて、成年後見制度の利用もしていきたいところです。
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エンディングノートを記しておく
一人暮らしの人が亡くなった場合、親戚や友人の存在に気づいてもらえず、行旅死亡人になってしまう恐れがあります。そのような事態を防ぐためにも、終活の一環としてエンディングノートを活用してみてはいかがでしょうか。友人や知人の連絡先を記入しておけば、いざというときに連絡してもらえるかもしれません。
その他、エンディングノートには死後の希望なども記せます。使うノートや形式は自由なので、気軽に記入できるのが魅力です。その反面、遺言書と違って法的拘束力はないので、その点には注意してください。
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遺言書を用意しておく
遺言書は、死後の財産の処分方法について意思表示するための書面です。遺言書に希望を明記しておくことで、意図しない財産継承を防げます。本人が望むのであれば、自分の財産を希望する団体に寄付することも可能です。
その他、信頼できる親戚や友人、知人などと「財産の継承を約束する代わりに、自分の世話をお願いする」という契約を結んでおくと、いつか来る日に身寄りがいないという状況を回避できる場合も。財産だけでなく、孤独死、行旅死亡人になることを防ぐために、元気なうちに遺言書を作成しておくのも一つの方法です。
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不安を抱えるよりも、行旅死亡人を回避する一歩を
引き取り手のない最期を迎える行旅死亡人。これを聞くと不安になりますが、誰もがいきなり身元不明になる訳ではないので、過剰な心配はしなくても大丈夫です。心配な人は、身近な人との付き合い方を変える、エンディングノート・遺言書を作成するなど、終活を交えつつ、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者
政田礼美 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユ初の女性葬祭ディレクター。葬儀スタッフ歴は10年以上。オンライン葬儀相談セミナーなどを担当。
家族葬のファミーユ初の女性葬祭ディレクター。葬儀スタッフ歴は10年以上。オンライン葬儀相談セミナーなどを担当。