「妻・上島光がメモした“竜ちゃん語録”」タレント 上島光(広川ひかる)さん【インタビュー前編】~日々摘花 第43回~

コラム
「妻・上島光がメモした“竜ちゃん語録”」タレント 上島光(広川ひかる)さん【インタビュー前編】~日々摘花 第43回~
2022年5月、61歳という若さでこの世を去ったお笑いトリオ「ダチョウ倶楽部」の上島竜兵さん。お茶の間で愛された上島さんの突然の死は、日本中に衝撃を与えました。

「竜兵会」と呼ばれる芸人仲間の集まりを主催するなど面倒見の良さでも知られ、芸人仲間にも慕われた上島竜兵さん。家族には、どのような存在だったのでしょうか。妻であり、自らも芸能界で活動する光さんに、竜兵さんとの思い出と別れについてお話しいただきました。
人は必ず、大切な人との別れを経験します。その深い悲しみと、そこから生まれる優しさを胸に、“今日という日の花を摘む”ように、毎日を大切に生きてゆく……。「日々摘花(ひびてきか)」は、そんな自らの体験を、様々な分野の第一線で活躍する方々に共有していただく特別インタビュー企画です。

プロポーズの嵐を受け、24歳で「竜ちゃん」と結婚

−−竜兵さんと初めて会ったのは、光さんが高校3年生の時だったとか。

光さん​母校の「卒業生を送る会」のゲストが「ダチョウ倶楽部」だったんです。当時私はものまねタレントとしてデビューしたばかり。「芸能活動をしているから」という理由で3年生でしたが、「送る会」の司会を頼まれ、先生と一緒に楽屋に挨拶に行ったのが竜ちゃんとの初対面でした。

この時はとくに会話を交わしたわけでもないのですが、その後、番組の収録現場で顔を合わせたり、芸人仲間とみんなで飲みに行くようになりました。ある日、「肥後ちゃん(ダチョウ倶楽部 肥後克広さん)と飲みに行こう」と誘われて待ち合わせ場所に行ったら、竜ちゃんしかいなくてふたりで飲むことに。その時に、「お付き合いしてください」と真面目な顔で言われました。

すでに竜ちゃんの人柄は知っていましたから、「まずはお友だちから」と思って承諾したものの、当時の私は二十歳そこそこ。結婚については、考えたこともありませんでした。一方、竜ちゃんからは、付き合って間もない時期からプロポーズの嵐。最初は戸惑っていた私も「この人と結婚するのね」と思うようになり、付き合って4年目に結婚式を挙げました。竜ちゃんは33歳、私は24歳でした。

当時「ダチョウ倶楽部」は深夜に冠番組を持つなど脂が乗ってきた時期。年齢的にも竜ちゃんは30代を迎え、「家庭を持ちたい」という気持ちが強まっていたのかもしれません。

毎晩不在の夫、飲み代は月100万超!

−−家庭での竜兵さんはどんな存在でしたか。

光さん:存在も何も、仕事や飲み会でしょっちゅう出かけ、とにかく家にいませんでした。28年の結婚生活の間、私よりも志村けんさんや「竜兵会」の皆さんと過ごした時間の方が多かったのではないでしょうか。そのくせ、自分はすごく甘えん坊で、家の中で私の姿が見えないと「ヒーチャン、どこ」と探し回り、私が「ここですよ」と顔を見せるとにっこり笑って部屋に戻るんです。

私との約束は平気ですっぽかし、毎晩のように後輩におごるから、飲み代が月100万円を超えることもよくありました。芸人仲間と飲んで、笑い、語り合うことが竜ちゃんにとって大切な時間だということはもちろん理解していましたが、毎日毎日、何軒も行かなくてもいいはず。意見をしても反省するのはその場限りで、何度も同じことを繰り返す竜ちゃんに呆れ果て、離婚を考えたことも一度や二度ではありません。

でも、離婚話を切り出そうとしても帰ってこないし、帰ってきても、酔っ払っているから、話にならない。そんな日々を繰り返しているうち、怒るのが馬鹿馬鹿しくなりました。それに、竜ちゃんはずるいんですよ。私が怒ると、決まって「ごめんなさい。もうしません」と平謝りするのですが、その姿がおかしくてたまらなくて。笑いを堪えられず、怒っていたことを忘れてしまうのが常でした。

−−憎めないですね。

光さん: 悔しいけれど、そうなんです。もう本当にいい加減で頭に来るけれど、面白いから笑ってしまう。誕生日とか結婚記念日に思いついたようにお花をくれることがあったのですが、ある時、「これ、バレリーナの人に大人気の花なんだって」と言って少し変わった形のチューリップの花束を渡されて。不思議に思って調べてみると、それは「バレリーナ」という品種のチューリップでした。このように、人の話をちゃんと聞いていなくて、何でもうろ覚えなんですよ。

そんな調子ですから言い間違えも多くて、いつか「竜ちゃん語録」をカレンダーにしたら面白いんじゃないかと思って、秘かに手帳にメモしていました。

−−どんな言い間違えを?

光さん:例えば、歌手のブリトニー・スピアーズのことを「ブリトニー好きな奴」。「それ、ただのファンだろっ!」とすかさずツッコミを入れました。「ウィッグ」のことを「フロッグ」と言っていましたし、スウェーデンの伝説的バンド「ABBA(アバ)」は「ボヤ」。ほかにも、数え切れないほどあります。
光さん:竜ちゃんは何をやっても面白くて、お笑いに対してすごく真面目で。身内ながら素晴らしい芸人だと思っていましたし、今も思っています。私は結婚後竜ちゃんのサポート役に徹することに決め、芸能活動をしばらく控えました。

竜ちゃんは私には何でも自分を一番にしてほしい人でしたから、家庭円満のために「竜ちゃんファースト」の人生を歩むことになりましたが、私はおかみさんとして家のことは全てやるから、竜ちゃんには芸人として思いっ切り仕事をしてほしいと思っていました。

竜ちゃんは寅さんのように旅に出ている

−−竜兵さんには繊細で傷つきやすい面もあったそうですね。

光さん: 人に言われたことで思い悩み、「気にしなくても、大丈夫だよ」と励ますことがよくありました。長い間不眠症や腰痛に悩まされ、糖尿病も患っていました。「飲み過ぎないで」と怒られるのがイヤだったのか、体調のことは私に話そうとしなかったので、確かなことはわかりませんが、身体の不調が心に影響していたところもあったかもしれません。

ただ、仕事や飲み会に忙しく過ごしているうちは、塞ぎ込むようなことはなかったんです。ところが、新型コロナウイルス感染症の影響で仕事が一時的に減り、仲間とも会えなくて落ち込んでいたところに、師匠と慕っていた志村けんさんが他界。泣いて泣いて、ぼうっと過ごす時間が増えました。

鬱か男性の更年期かなと思い、病院に行くことを何度も勧めましたが、聞いてくれませんでした。どうにかしなければと思いましたが、芸能人で皆さんに顔を知られていることもあり、どの病院に行けばいいのかわかりませんでした。自宅で診てくれる医師を探すなどいくつか手立てはあったはずですが、当時は思い浮かばなかったんです。

「無理矢理にでも病院に連れて行けば良かった」、「あの時、一緒に竜ちゃんの部屋に入っていたら」と何度後悔したかわかりません。今も後悔しています。

−−竜兵さんの16回目の月命日に、光さんは竜兵さんが大好きだった映画『男はつらいよ』の主人公「寅さん」になぞらえ、「竜ちゃんは寅さんのように旅に出ていると思っている」とブログに綴られました。

光さん:そう思わないと、前に進めないですよね。悲しくて、情けなくて、悔しくて。竜ちゃんは私に怒られるとよく詫び状をくれて、そこには「本当にごめんね。僕はヒーチャンを幸せにするために生きています」などと書かれていました。

それなのにひとりで逝ってしまうなんて、結局、あの言葉は何だったんだという感じですよね。身勝手にも程があります。仕事では人に迷惑をかけないようにしていた人なのに、最後の最後に沢山の人に迷惑をかけることになってしまいました。

私にとって竜ちゃんは「憎めない人」。でもやっぱり、時には「竜ちゃんのばかやろう!」と叫びたくなります。

~EPISODE:癒しの隣に~

沈んだ気持ちを救ってくれた本・映画・音楽などがあれば教えてください。
竜ちゃんも私も大好きな映画『男はつらいよ』シリーズです。コロナの自粛期間中、竜ちゃんは毎週土曜日を唯一のアルコールデイと決めて、ふたりで晩酌をしながら「寅さん」を観ました。この時に撮影したワイングラスの写真に、竜ちゃんの笑顔が映り込んでいるんですよ。よほど楽しみだったのでしょうね。

『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(第17作)

上島竜兵さんが映画『男はつらいよ』シリーズで一番好きだったのは、1976年公開の第17作『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』。兵庫県龍野市を舞台に繰り広げられる人情物語で、マドンナは龍野芸者・ぼたん(太地喜和子)。竜兵さんはシリーズ50作すべてを観ており、DVDも揃えるほどの「寅さんファン」だった。
©1976/2019 松竹株式会社
Blu-ray: 3,080円(税込)、DVD:1,980円 (税込)
発売・販売元:松竹
※2024年1月時点の情報です

プロフィール

タレント/上島光(広川ひかる)さん

【誕生日】1970年10月6日
【経歴】埼玉県出身。高校時代から芸能界を志す。1988年、フジテレビ系の「発表!日本ものまね大賞」で優勝し、芸能界入り。1994年に上島竜兵氏と結婚。一時主婦業に専念するが、その後ものまね番組や情報番組のリポーター等で活動している。芸名・広川ひかる。

Information

上島竜兵さんの他界後、妻である光さんが初めて胸の内を明かした『竜ちゃんのばかやろう』(株式会社KADOKAWA)。竜兵さんと過ごした日々のエピソードや、衝撃的な別れ、その後の複雑な胸の内が率直に記されている。
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子)