「父の最期から多くを学んだ」秋吉 久美子さん【インタビュー前編】~日々摘花 第1回~

コラム
「父の最期から多くを学んだ」秋吉 久美子さん【インタビュー前編】~日々摘花 第1回~
人は必ず、大切な人との別れを経験します。その深い悲しみと、そこから生まれる優しさを胸に、“今日という日の花を摘む”ように、毎日を大切に生きてゆく……。「日々摘花(ひびてきか)」は、そんな自らの体験を、様々な分野の第一線で活躍する方々に共有していただく特別インタビュー企画です。

第1回のゲストは、女優の秋吉久美子さん。本編は、前・後編の2回に渡ってお送りする、前編です。
自由奔放な発言と天真爛漫なイメージのある秋吉さんは、実は学び続ける人。40代で留学、50代で大学院入学など常に新しいチャレンジを続けています。前編では秋吉さんと大切な人との別れ、後編では人生観をうかがいます。秋吉さんの生き方から、いつまで経ってもキラキラした人生を送るためのヒントを探ります。

逆境なのかチャンスなのか、全ては心の有り様で決まる

ーー新型コロナウイルスによる緊急事態宣言で外出自粛が求められるなか、どのような日々をお過ごしでしたか。

秋吉さん:16歳になる愛犬が病気がちなので介護に追われていました。コロナと愛犬の病気、ダブルで困難に見舞われたけど、自宅待機していたからこそ集中して愛犬に向き合い、面倒を見ることが出来ると前向きに考えています。
ーーすごくポジティブですね!ここ最近、世界的に重苦しいニュースばかりで、嫌になったりはしませんか?

秋吉さん:自分の身に起きたことを逆境と感じるか、チャンスと感じるのか。全ては心の有り様ではないでしょうか。前向きな心をキープするエネルギーを持ち続けるのは大変なことですが。
ーーブログではそんなエネルギーを感じる発信を積極的にされています。どのようなお気持ちで書いているのでしょうか。

秋吉さん:ブログを続けていると、自分の気持ちや考えを言語化して人に分かりやすく伝えようとするので客観的に自分を捉えることができます。漢字や四字熟語をなかなか思い出せないとか、文章の起承転結ができていないとか、そういう自分に気がつくと謙虚に暮らしていけると思う。何でも分かったつもりでいる老人にはなりたくないですから。
ーー自分をあらためて見直す機会なんですね!美味しそうな料理の写真もたくさん掲載されていますが、どれもとても美味しそう。

秋吉さん:冷蔵庫にある食材から閃きでメニューを考えるので、作ったらレシピは忘れてしまうんです。でも、どれも美味しいですよ(笑)!私は途中でレシピを変えたりもするから、お菓子作りには向いていないのかも知れません。お菓子作りは化学実験のように分量計算をしっかりして手順通りに進めないといけないでしょ。几帳面な人に向いていますね。

故人との“別れ”は、悲しみと共に学んでいくもの

ーーこれまでの人生で、印象深い「(故人との)“別れ”」はいつ、どんな人とのどんな“別れ”でしたか?

秋吉さん:私が小学校生のころに亡くなった祖母との別れですね。その時、急いで病院に駆けつけたら病室の窓のカーテンがはためいていた。病室は普段窓を開けていないから、患者がもう亡くなったということなんですよね。白いカーテンが揺れているのを見て、「おばあちゃんはもういないんだ」と幼心に死を感じたのをよく覚えています。これが一番印象に残っている別れです。
ーーそれはお辛い…。お祖母様の死を乗り越えるために、どのように自分のメンタルをケアしたのでしょう。

秋吉さん:「死を乗り越える」とよく言いますが、死とは乗り越えるものではなく、悲しみと共に学んでいくものだと思います。忘れるのではなく、故人を思い出しながら、日々絆を深めていくことが大切なのではないでしょうか。
ーーなるほど、「学ぶ」ですか。そういった価値観を持つようになったのは、何かきっかけが?

秋吉さん:父が癌で他界した時でしょうか。父は祖父との間に確執があり嫌な思いもしたようですが、死の直前には祖父を許していました。「よく考えたら、俺のことを愛していてくれていたと思う」と言って亡くなっていったのです。長い間自分を苦しめていたわだかまりから解放されて、人を許し愛せる人間になって亡くなる姿を私に見せてくれました。父は人生の最期に私に一番素敵なものを与えてくれたのだと思います。

大人とは、自分のことだけを考えない人

ーー秋吉さんが日々の中で大切にしていることは何でしょうか。

秋吉さん:常に「学ぶ」ことです。本や映画によって自分が生きている時代を知り、その時代のなかで生きている自分の存在、そして思考を深めていくことは非常に大切だと思います。若い頃、『ソルジャー・ブルー』(1970年公開)という映画にショックを受けました。それまで観ていた西部劇ではインディアンは悪者として描かれていたのですが、この映画はインディアンの視点から開拓史の一面を描いた作品です。この映画に出会ったことで、アメリカの歴史に新たな認識を持つようになりました。
ーー「学ぶ」というキーワードは、先ほどもお話の中に出てきました。女優業以外で、学問的な活動を見ると、秋吉さんは詩集も発表され、今年開設された一般公募の「秋吉久美子賞」の選考もされていますね。

秋吉さん:詩人の秋亜綺羅さんと一緒に選考していますが、“上手な”作品が多くて驚いています。今の時代に詩なんて書けないのものだと思っていたのですが、詩作に励む方が多勢いることを知り、嬉しいです。ただ、世間の評価を気にし過ぎているのか、自分の世界、価値観に留まったままで言葉を選んでいる作品が多いとも感じます。忖度している、って言うのでしょうか。言葉は拙くても良いから、もう一歩外に踏み出して欲しいという思いはあります。詩を発表しただけで逮捕される時代があったように、詩には人を動かす力があるのですから。
ーーその意味では、女優という肩書も人の心を揺さぶりますよね。秋吉さんは地元福島への復興支援活動を積極的におこなっています。これは故郷への思い入れの強さからでしょうか?

秋吉さん:もちろん福島は好きです。でも福島が故郷だから支援活動したのではなく、「大人」だから行動しました。

ーー「大人」、ですか。

秋吉さん:はい、大人とは自分のことだけを考えない人のことだと私は思うんです。マザー・テレサは「愛の反対は憎しみではなく無関心」だと言いました。故郷じゃない土地での出来事だから、日本以外の国で起こった悲劇だから無関心でも良いのか。それはなんか違いますよね。だったら行動を起こすしかない。

それが故郷の為になるなら、なおさら頑張ろうと思えるじゃないですか!私が動いて名前が出ることで、メディアにも取り上げてもらい、状況をより多くの人に知ってもらえるならそれも私の役目だと考えたんです。

〜EPISODE:さいごの晩餐〜

「最後の食事」には何を食べたいですか?
母が病気で食事が喉を通りにくくなった時に、料理人の親友が鶏のムネ肉で出汁を取り白菜を形が無くなるくらいまでトロトロに煮た重湯みたいなスープを作ってくれました。母が美味しそうに食べていたのを覚えています。あれが良いかな〜。

鶏ダシの白湯スープ レシピ(1人前)

【材料】
鶏むね肉、白菜、塩、コショウ

【作り方】
①鶏むね肉でダシをとり、スープをつくる。
②ざく切りにした白菜を入れ、形がなくなるくらいトロトロになるまで煮込む。
③塩とコショウで味を整える。
※レシピ、写真はイメージです。

・プロフィール

女優・秋吉 久美子さん

【誕生日】7月29日
【経歴】幼少期~高校卒業まで福島県いわき市で育つ。デビュー作は1972年 松竹映画「旅の重さ」。
【趣味】詩吟/旅行/読書/書/ヨガ
【ペット】イヌ(オス♂ 名前:フランソワーズ)
【そのほか】2009年、早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科卒業。2013年には、東北未来がんばっぺ大使(消費者庁)に就任。

・Information

今回インタビューにご出演くださった秋吉久美子さんの書籍「調書:秋吉久美子(著・秋吉 久美子、樋口 尚文)」が、筑摩書房より2020年9月18日に発売決定!デビュー以来の出演作品について、映画監督兼評論家である樋口尚文氏と語りつくします。ぜひ、お手元に一冊。
(取材・文/清水 清  写真/金谷 浩次)