献体とは?登録方法と葬儀をおこなうタイミングを解説
わたしのお葬式
献体とは、自分の死後に遺体を大学などへ提供し、医学の発展に貢献する尊い行為です。現在は献体希望者が増加傾向にありますが、申し込む際は肉親全員の同意が必要など、いくつかの条件があります。今回は献体の意味や必要性を始め、献体登録をする方法や葬儀をおこなうタイミング、申し込み前に知っておきたい注意点を紹介します。
目次
医学の発展に貢献する「献体」について
医学の発展に献体は欠かせません。現在は献体を希望する方が増加中のようです。まずは献体の意味や必要性、献体希望者が増加している理由を紹介していきます。
献体とは遺体を無償で提供すること
自分の死後、大学や関連団体などに遺体を無報酬で提供するのが献体です。献体は、希望する人が生前に献体登録をすることから始まります。その人が亡くなったとき、家族がその意思に沿って遺体を大学に提供。そこで初めて献体が実現します。
ちなみに、家族の承諾のもとで献体されることを「成願(じょうがん)」と表現します。
医学の発展に貢献できる尊い行為
献体として提供された遺体は、医学・歯学の大学における学生、および医師の教育・訓練に役立てられます。学生は大学の解剖実習室において遺体を解剖することで、人体構造の基礎を学んでいくことができます。
つまり献体は医学の発展、そして優秀な医師の育成に貢献できる尊い行為と言えます。その証拠に、献体者の遺族には文部科学大臣から感謝状が贈られます。
解剖学実習ができない危機に陥った過去がある
昭和30年、40年代は献体される遺体の数が足りず「医学教育の危機」と言われる状況だったそうです。そうした状況を危惧した人たちによって献体運動が生まれ、献体の認知度が向上。そして、献体のための篤志者団体が各地につくられるまでになりました。
現在は献体を希望する人が増加中
過去、2015~2017年あたりに、テレビ番組やニュース記事で献体が取り上げられる機会がありました。それによって献体への注目度が上昇。「死後に社会の役に立ちたい」と考えるきっかけとなり、献体希望者が増加したようです。
中には、「家族に負担をかけたくない」と考え、献体を希望する人もいます。なぜならば、献体をすると遺体の運搬・火葬費用は大学が負担するためです。葬儀や納骨にかかる費用を遺族が負担することは変わりませんが、多少の経済的負担を減らすことができます。ただし、大学とのやり取りという時間や手間の負担は増えます。
他にも、献体後に遺骨の引き取り手がなければ大学が供養塔などで弔うため、身寄りのない人が終活の一環として献体登録することもあります。ただし、遺骨は遺族の引き取りが原則です。大学側の納骨堂の状況により、引き取り手がいない人は献体登録できないこともあるようです。
【申し込み前~完了まで】献体登録の流れ
献体登録を考えたときは、まず登録条件や献体後の流れを把握することをおすすめします。ここでは献体後の流れを、申し込み前から完了まで順を追って解説します。
①登録条件に適しているか確認する
献体登録は誰でもできるわけではなく、いくつかの条件が設定されています。
<条件としてみられる例>
- 20歳以上であること
- 特定の持病・既往歴がない、感染症(B型肝炎・C型肝炎・HIV・梅毒・MRSAなど)に罹っていないこと
- 肉親全員の同意があること
- 大学や団体から遠い地に住んでいないこと
なお、各大学によって献体登録が可能な年齢は異なりますが、高齢者が優先される傾向にあります。登録条件は大学や団体によって異なるため、あらかじめ確認しておくと確実です。
②献体後の流れを把握する
献体登録をしている人が亡くなったとき、まず家族が登録先に連絡をします。その後、遺体は大学へ運搬され、3~6ヵ月程度の解剖準備期間を経てから、3~7ヵ月程度の解剖学実習に役立てられます。
解剖学の実習は、大学ごとに決められた時間割に沿って進められるのが一般的です。その年の実習に間に合わない場合は、翌年までそのまま保管されることも。実習が終了したら大学側が火葬をおこない、遺骨を遺族に返還します。
献体はこのような流れで進むため、逝去後に遺骨となって家族のもとに返されるのは、1~2年、長いと3年以上かかることもあります。
③大学または団体に申し込む
献体の申し込み先は、献体篤志家団体(献体の会)または、医科および歯科の大学です。申し込みをする際は、住んでいる都道府県にある医科大学(大学医学部)、歯科大学(大学歯学部)、献体の会に問い合わせをして、申込書を受け取ります。
④申込書の記入・返送をする
手元に申込書が届いたら、必要事項を記入して返送します。自分の捺印に加え、肉親の同意の印も必要です。申し込み方法は大学や団体によって異なるので、あらかじめ確認しておくと安心です。
⑤会員証を受け取る
申込書が受理されると、献体登録をした証明となる会員証(献体登録証)が発行されます。通常は、これで手続き完了です。会員証には逝去後に連絡する登録先の団体名や、連絡方法といった重要事項が記載されているため、紛失しないよう大切に保管してください。
献体時におこなう葬儀のタイミング【3パターン】
先述したように、献体をする際は解剖後に火葬がされ、遺骨になって家族のもとに返ります。そのため、通常の葬儀とはタイミングや方法が異なります。献体登録をする前に、葬儀のことも考えておくことが大切です。ここでは、献体時におこなう葬儀のタイミングを3パターン紹介していきます。
①献体前におこなう
1つ目は、献体前に葬儀をおこなうパターンです。この事例では、通常の葬儀よりも慌ただしくなることが予想されます。なぜならば、献体する遺体を48時間以内に大学へ引き渡さなくてはいけないためです。
つまり、葬儀式・告別式を逝去後48時間以内に終える必要があるのです。逝去した時間によるものの、基本的に逝去の当日に通夜を、翌日に葬儀式・告別式、そして大学への搬送をおこないます。
②献体後に遺体・遺骨がない状態でおこなう
2つ目は、献体後に葬儀をするパターンです。献体後に葬儀をする場合は、遺体と遺骨がない状態で通夜や葬儀式・告別式をおこないます。遺体がないので、棺は用意されずに遺影や位牌を中心に儀式が進みます。
献体後に葬儀をおこなう場合は、献体前の葬儀のような“48時間以内”という縛りはありません。その点は残された家族からすると助かりますが、最期の別れで対面できない点はデメリットと言えるかもしれません。
③献体後に遺骨が返ってきてからおこなう
3つ目は、献体後に遺骨になって返ってきてから葬儀をおこなうパターンです。「骨葬(こつそう)」と呼ばれる遺骨でおこなう葬儀がありますが、献体後の遺骨の返還時期は定まっておらず、少なくとも2~3年程度はかかるため、この方法はなかなか難しいかもしれません。
申し込み前に知っておきたい、献体に関する注意点
「社会の役に立ちたい」と考え、献体登録を検討している人もいるでしょう。献体は尊い行為ですが、逝去後に断られたり、家族が複雑な心境になってしまったりなど、自分の想像通りに進まないことも考えられます。こちらでは、献体登録の申し込み前に知っておきたい注意点を2つ紹介します。
献体を受け付けられない場合
生前に献体登録をしていても、以下のような理由から逝去後に断られてしまうことがあります。
①臓器提供のドナー登録もしている
献体と臓器提供の両立は不可能です。両方に登録している場合は、どちらにするか遺族に選択が求められます。
献体と臓器提供の両立は不可能です。両方に登録している場合は、どちらにするか遺族に選択が求められます。
②遺体の損傷が激しい
交通事故などが原因で激しく損傷している遺体は、保存する処置が難しいなどの理由から献体を断られることがあります。なお、生前の病気や手術痕などの場合は、受け入れ先によっては献体できることも。ただし、手術中または手術直後に亡くなられた場合は、遺体を保存する処置が不完全になる恐れがあるため、断られてしまうようです。
交通事故などが原因で激しく損傷している遺体は、保存する処置が難しいなどの理由から献体を断られることがあります。なお、生前の病気や手術痕などの場合は、受け入れ先によっては献体できることも。ただし、手術中または手術直後に亡くなられた場合は、遺体を保存する処置が不完全になる恐れがあるため、断られてしまうようです。
家族とよく話し合うことが重要
献体登録をする際も肉親全員の同意が必要ですが、逝去後に実際に献体する際も同意が求められます。そこで誰か1人でも同意を拒否すると、献体は実現しないということがあります。
家族からすると、やはり火葬まで見守りたいと思うものです。献体を希望する人は、まず家族と話し合うことから始めてみてください。そして、お互いに納得の上で献体登録を終えたら、エンディングノートなどに自分の希望を書き記し、家族に残しておくと安心です。
エンディングノートは人生の記録。ノートを書くメリットや書き方 - 家族葬のファミーユ【Coeurlien】
「終活」という言葉が定着してきた昨今、「エンディングノート」という言葉もよく聞かれるようになりました。エンディングノートは、人生のラストステージに向けた準備。細かく記載していくことで、自身の人生を振り返ることができます。ここでは、エンディングノートの概要やメリット、さらには書き方のポイントまで紹介します。
献体を考えたときは、まず家族に相談することから始めて
献体は医学の発展に欠かせないものであり、社会に役立つ尊い行為です。しかし、自分の死後に献体や葬儀の手続きを進めるのは、他でもない家族であることを忘れてはいけません。登録を検討するときは、遺される家族の気持ちを考えることも大切です。まずは家族と相談して、献体の意義や自分の気持ちを伝えることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修者
瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。