阿闍梨とは位の高い僧侶のこと。その種類や、修行内容を解説

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阿闍梨とは位の高い僧侶のこと。その種類や、修行内容を解説

この記事はこんな方におすすめです

阿闍梨の意味を知りたい
阿闍梨の種類や修行について知りたい
阿闍梨(あじゃり)とは、仏教では位の高い僧侶、密教では僧侶の資格を持つ者を指します。密教の阿闍梨は仏の教えに関する深い知識を備えており、灌頂(かんじょう)の師と呼ばれることも。この記事では阿闍梨の概要や種類、阿闍梨になるための修行を紹介します。阿闍梨にまつわる一般的な疑問、気になる阿闍梨餅についても解説するので参考にしてください。

位の高い僧侶を指す阿闍梨とは

仏教における阿闍梨とは、弟子に教授する師であり、手本となる存在の高僧のこと。真言宗を始めとした密教では、僧侶の資格を有する者を意味します。ここでは阿闍梨の概要について詳しく紹介します。

密教における僧侶の資格

阿闍梨とは、サンスクリット語で高僧を意味する「アーチャーリヤ」を漢字で表した言葉です。密教では伝法灌頂(でんぽうかんじょう)を受けた者を指します。
灌頂とは頭の上に神聖な水を注ぐことを指し、伝法灌頂は定められた修行を経た後、密教の法を受け継ぐためにおこなわれる秘密の儀式です。なお、阿闍梨は学識が深く、徳が高いことに由来して灌頂の師とされることもあります。

13種類の徳を備えた僧侶

阿闍梨が備えるべきと言われている徳の数は、各寺院の解釈によって異なります。一般的な13種類の徳は、以下の通りです。
  • 悟りを得ようとする菩薩心を持つ
  • 優れた妙慧と慈悲の心を備えている
  • 五明を習得し、さまざまな技能に秀でている
  • 般若波羅蜜の修行をやり遂げている
  • 大乗だけでなく、金剛乗や声聞乗を含めた三乗を知り尽くしている
  • 真言に関する意味を心得ている
  • 命あるすべてのもの心を知っている
  • さまざまな仏や菩薩を信じ切っている
  • 伝法灌頂を受け、曼荼羅(まんだら)の構造をよく知っている
  • 柔和な性格で、自分の小さな考えや執着に捉われずにいられる
  • 真言行(真言で行をすること)に確信を得ている
  • 瑜伽(ゆが:ヨーガのこと)を習得している
  • 堅固で健やかな菩薩心を備えている
それぞれの徳を見てみると、さまざまな要素が必要とされることがわかります。ただ修行をするのではなく、徳を積み、仏に寄り添い続ける姿勢が大切だと言えるのではないでしょうか。

阿闍梨から大阿闍梨へなるための千日回峰行

千日回峰行とは、大阿闍梨になるため7年間かけておこなわれる天台宗の修行です。諸刃の短剣と死出紐(しでひも:首をくくる紐)を携え、途中で継続するのが困難になったときは自害する覚悟で修行に出ます。
<修行の事例:比叡山延暦寺の千日回峰行>
1年目から3年目 1日に30キロメートルを歩いて260カ所以上の霊場を回る。これを毎年100日間おこなう
4年目・5年目 3年目までと同じ行程を年間200日おこなう
その後9日間、不臥・不眠・断水・断食で不動真言を唱え続ける「堂入り」に入る
6年目 1日約60キロメートルの行程を100日間おこなう
7年目 前半の100日は「京都大廻り」と呼ばれる84キロメートルの行程をおこなう
後半の100日間に比叡山の30キロメートルを巡り、満行となる
塩沼亮潤大阿闍梨は、23歳で奈良県吉野の大峯山で大峯千日回峰行(おおみねせんにちかいほうぎょう)に入り、9年で満行しました。大峯千日回峰行を成し遂げたのは1,300年の歴史で2人だけということから、とても厳しい修行だということがわかります。

阿闍梨の種類

阿闍梨にはいくつかの種類があり、日本の密教とインド仏教で異なります。ここで阿闍梨の種類を整理しておきましょう。

日本の密教における阿闍梨

修行者に大日如来の秘法を授ける「伝法灌頂」という儀式を経て、阿闍梨となった僧侶のことです。真言宗においては、伝法阿闍梨と認められた時点で一人前と捉えられ、伝法灌頂の位を持った僧侶として「阿闍梨」と呼びます。

先述の通り、天台宗では阿闍梨の上に大阿闍梨という位があります。

インド仏教における阿闍梨

インド仏教では、阿闍梨は5種類あるとされます。以下に紹介する名称は、いずれも弟子から見た言い回しです。
種類 役割
1.出家の阿闍梨 仏門に入った弟子「沙弥(しゃみ)」に対し、持つべき十戒を授ける
2.教授の阿闍梨 出家した弟子が守るべきこと(具足)を受戒するのに、ふさわしいかを決める
3.羯磨(かつま)の阿闍梨 羯磨(かつま)とは儀式のことで、それを4回執りおこなう白四羯磨(びゃくしかつま)の司会をする
4.依止(えじ)の阿闍梨 授戒師である和尚の代わりに指導する
5.受法の阿闍梨 教法や戒律などを教授する
なお阿闍梨の種類については複雑なため、説明をわかりやすく簡略化しています。密教やインド仏教についての専門書を読んだり、お寺の僧侶のお話を聞いたりなどしてみると、より阿闍梨について深まるでしょう。

五明と呼ばれる阿闍梨になるための修行

阿闍梨になるための修行では5つの分野を学ぶ必要があり、これを五明(ごみょう)を呼びます。ここでは五明について紹介します。

元はインドの学問

五明は古代インドの学問分類法で、仏教徒としても学ぶべき5つの内容を示しています。言語学の声明(しょうみょう)、医術・薬についての医方学(いほうみょう)、哲学にあたる内明(ないみょう)、論理学の因明(いんみょう)、工芸・技術に関する工巧明(くぎょうみょう)があります。

1.声明(しょうみょう)

お経を読む方法や声の発し方に関連したもので、五明のうちで特に大切とされています。声明により旋律を豊かな表現する方法を学びます。

2.工巧明(くぎょうみょう)

工芸や建築、彫刻を始めとした仏像や寺院に関わる技術のことを指します。

3.医方明(いほうみょう)

医療や薬に関する学問や、密教における生理学に関連したことを指します。

4.因明(いんみょう)

仏教論理学のこと。論理による因果の関係を導きだす学問です。

5.内明(ないみょう)

仏教学や法舞、律蔵など、仏教に求められる基本的な教養を指します。また、儀式で楽器を弾く場面があるため、吹奏楽も学びます。

阿闍梨に関する疑問

厳しい修行を終え、深い知識を備えた僧侶である阿闍梨。ここからは、阿闍梨に関する疑問を紹介します。

阿闍梨になるためにはどうすれば良い?

仏門に入り、師を得る必要があります。多くは天台宗や真言宗などの寺院で密教に関する知識を得ながら修行に励みます。専門学校や大学など僧侶を育成する専門の教育機関で密教を学び、僧侶を目指す方法もあります。教育機関なら必要な知識を効率的に学べるため、滞りなく修行に入れるのが魅力です。
なお、阿闍梨になるための修行は「十八道(じゅうはちどう)法」・「金剛界法」・「胎蔵(たいぞう)界法」・「護摩の法」があり、四度加行と呼ばれます。
例えば真言宗の阿闍梨になるには、師僧となる僧侶の元で得度と呼ばれる儀式を受け、戒律を授かり(受戒)、一定期間の修行をおこない(四度加行)、伝法灌頂を受けることになります。

阿闍梨の祈祷を受けることは可能?

比叡山延暦寺では、千日回峰行を終えた大阿闍梨による特別祈祷が実施されています。厄除けや家内安全、開運招福などの願いを護摩木に託し、大阿闍梨と一緒にお祈りするのが一般的な流れです。祈祷の後には、護符や護摩の炭をもらえます。
参加を希望する場合は、公式サイトなどで特別祈祷の日時を確認し、比叡山延暦寺の受付で申し込みをおこなってください。大阿闍梨の間近に座れる特別席は、予約が必要です。高い徳を積んだ僧侶の近くで祈りを捧げることのできる機会は滅多にないため、チャンスがある場合は参加を検討してみると良いかもしれません。

京都の和菓子、阿闍梨餅とは?

阿闍梨餅は、大正12年に京都の和菓子店で生まれた銘菓です。阿闍梨が厳しい修行中餅で飢えを乗り越えたことが名前の由来。形は、比叡山で千日回峰行に励む阿闍梨が頭にかぶった笠をモチーフにした円錐型です。
餅粉などを使った薄くもっちりとした皮に、丹波産の大納言小豆を炊いた甘さ控えめの粒あんを挟んだ半生菓子です。京都の銘菓として知られているので、この地を訪れた際のお土産にも適しています。

さまざまな知識の習得と修行をおこなった僧侶が阿闍梨になれる

阿闍梨とは、仏教では位の高い僧侶、密教では僧侶の資格を持つ者を指し、伝法灌頂を受けた者が得られる僧侶の資格です。また、修行だけでなく五明と呼ばれる分野に精通していることも、阿闍梨の根本要素とされています。さらに高みを目指す僧侶は、より厳しい修行に励み、大阿闍梨となる場合も。大阿闍梨に葬儀に来ていただくことはなかなかありませんが、特別祈祷や講演会などがある場合は、貴重な機会なので参加してみてはいかがでしょうか。