「引導を渡す」の正しい意味と使い方。宗派で異なる引導のながれを解説

お葬式のマナー・基礎知識
「引導を渡す」の正しい意味と使い方。宗派で異なる引導のながれを解説

この記事はこんな方におすすめです

「引導を渡す」の言葉の意味を知りたい
葬儀における引導について知りたい
「引導を渡す」という慣用句には、最後通告という意味があります。また、「引導」は仏式の葬儀で導師が仏の教えである法語や偈頌(げじゅ)を唱え、亡くなった人をあの世へ送ることを指します。この記事では「引導を渡す」と「引導」の正しい意味や語源、使われるシーン、葬儀における作法などについて解説します。

「引導を渡す」の言葉の意味や語源

「引導を渡す」の「引導」は、もともと仏教で使われる用語です。ここでは、言葉の意味や語源について紹介します。

意味は"諦めさせるための最終宣告"

「引導を渡す」とは、相手にこれが最後だと告げ、諦めさせるという意味の言葉です。似たような言葉としては、申し渡す・お払い箱にする・観念させる、などがあります。
また場合によっては、引導をくれてやる、引導を突きつける、と表現することもあります。

語源は仏教用語

引導を渡すの「引導」は、人を悟りに導いたり、亡くなった人が問題なく仏の世界へ行くために唱える「法(真理や教え)」のことを指します。
仏教では、亡くなったことに気づいていない故人がこの世をさまよい、亡霊になることを防ぐため、僧侶が法語を唱えて死を伝えるのが基本です。このように滞りなく仏の世界へ行けるよう導くことを「引導を渡す」または「引導渡し」と言います。もうあの世へ行くときが来たことを故人にわかってもらう行為であることに由来して、相手への最後の通告、諦めさせる、といった意味で用いられるようになりました。

間違われやすい「印籠を渡す」との違い

「引導を渡す」と間違えて言われやすいのが「印籠を渡す」です。そもそも「印籠を渡す」は慣用句として存在しない言葉で、辞書にも載っていません。「いんどう」と「いんろう」は読み方が近いので、誤って覚える人がいると考えられています。
印籠とは、長円柱型の小さな箱を指し、主に腰につけて持ち運びます。時代劇で見かけることが多いため、なじみがある人も多いのではないでしょうか。「印籠を渡す」とは小箱を渡すという意味になるため、誤った言葉を使わないよう気を付けてください。

【例文】「引導を渡す」の使い方

「引導を渡す」は、現代の日常生活でもさまざまなシーンで使われています。ここでは、ビジネスシーン、スポーツ、その他の場面に分けて「引導を渡す」の具体的な使い方を紹介します。

ビジネス

今後も見込みを感じられない人に最終通告をするような、ネガティブシーンで使われることが多いです。例えば、いつまでも結果を出せない部下に対して上司が退職を促すときや、取引先との契約解除を示唆するときなどが挙げられます。ただし、解雇や契約解除など、実際に行動を起こすことは表していません。厳しい状況にあることを相手に知らせ、諦めを促す意味合いがあります。
<例文>
  • 第一線で活躍する若手社員がベテラン社員に引導を渡した
  • 退いてもらうためには、はっきりと引導を渡すことも必要だ
  • 業績が芳しくないため、あの社長は引導を渡されるかもしれない

スポーツ

スポーツ界でも相手に諦めを促すときに用いられます。
<例文>
  • 所属する野球チームの勝利に貢献できなかったため、引導が渡されるときも遠くないだろう
  • ゲーム終了間際にゴールを決め、相手に引導を渡す4点目となった

その他

ビジネスやスポーツ以外にも、主にうしろ向きな意味合いで使われることが多いです。
<例文>
  • 我慢してやりたくないことを続ける必要はないと、引導を渡した
  • 信頼関係にあると思っていた人に突然引導を渡されて、途方に暮れた
  • 長年の付き合いがある人に引導を渡すのは、心が痛む

葬儀における引導の儀とは

葬儀における引導では、導師が法語や偈頌を唱えます。導師とは、仏教の教えを説く説教者のことで、現在は葬儀や法要で式をおこなう僧侶の役職を表す言葉になりました。ここでは、引導の概要について紹介します。

故人を極楽へ導く引導

引導は、葬儀の際におこなわれる儀式です。導師が法語や偈頌を唱え、亡くなった人が仏の世界へ行けるよう導きます。
このとき、宗派によっては松明(たいまつ)に似せたものを用いる場合も。僧侶が火葬をおこなっていた時代に、松明を使っていた説が由来です。宗派によって作法は異なり、浄土真宗では引導自体がありません。

引導で唱える法語と偈頌(げじゅ)

禅宗で用いられる引導法語は、亡くなった人の生前の徳を称えつつ、仏の教えを説き悟りの世界へ導くものです。一般的には、葬儀前に僧侶が親族に亡くなった人の生きていた頃の話を聞き、引導法語を作ります。四六文(しろくもん)と呼ばれる形式の漢詩文を取り入れるのが基本です。

偈頌とは、お経の中でも韻文の形で教理を述べたものです。

【宗派別】葬儀式での引導

葬儀式でおこなわれる引導は、各宗派でやり方が異なります。ここでは、宗派別の引導の概要を紹介します。なお、お寺や僧侶によって順番や内容が異なる場合があります。

曹洞宗

曹洞宗では松明を用い、禅師による引導法語(いんどうほうご)によって葬儀の儀式がおこなわれます。終盤で「喝(カツ)」や「露(ロ)」など大きな声を出すのが特徴。亡くなったことを故人に告げ、心安らかに仏の世界へ行ってもらうための意味があります。

臨済宗

松明で円を描き、引導法語を唱えます。亡くなった人の人徳を称え、禅の教えを説くことでこの世への未練を断ち、仏性が目覚めるように導くのが基本です。仏性とは、仏になるための素質のこと。そして、言葉では表せない禅の教えを「喝」や「露」の一声に込めます。

天台宗

密教の1つである天台宗では、引導作法と呼ばれる儀式がおこなわれます。導師が、松明で梵字のアの字とそれを囲むように円を描き、亡くなった人がこの世の執着心を断ち成仏できるように、仏教の教養の深さと徳の高さを讃えます。

真言宗

真言を唱えることによって功徳を授かることができるというのが印明(いんみょう)です。生前の名前や戒名などを読み、生きていたときの功績などを称えた後、無事に仏の世界へ行けるようみんなが願っていることを亡くなった人の魂に呼びかけます。亡くなった人に死を認めさせ、安らかにあの世へ旅立ってもらうことが引導作法の役割です。

日蓮宗

日蓮宗では、払子(ほっす)を3回振り、焼香を3回した後に引導文を読みます。最初にご宝前に向かって亡くなった人の身分や年齢、戒名などを言上した後に仏の世界へ入ることを乞い、亡くなった人に向かって迷いの世界から浄土へ導きます。

浄土宗

浄土宗では、引導のことを下炬(あこ)と呼ぶことがあります。下炬はもともと、故人の遺体を火葬する際に薪などに火をつける行為を意味する言葉でした。現在の葬儀では導師が2本の松明を持ち、1本を捨て、残りの1本で円を描き引導の句を唱えます。

浄土真宗

浄土真宗の教えでは、亡くなった人は阿弥陀如来によって浄土に生まれ変わり、導師が浄土へ導くわけではないと考えられています。そのため、葬儀では引導はおこなわれません。浄土真宗における導師は、亡くなった人を浄土へ導く人ではなく、葬儀や法要をおこなう立場の人を指します。

葬儀での「引導を渡す」は故人を浄土へ導くという意味

一般的に使われる慣用句「引導を渡す」は、最後通告という意味があります。葬儀式における引導は、亡くなった人が迷子にならず仏の世界へ着けるように、とおこなわれます。引導のあるなしなど宗派によって儀式の内容に違いがありますが、故人を丁重に見送りたいという気持ちに変わりはありません。

この記事の監修者

政田礼美 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユ初の女性葬祭ディレクター。葬儀スタッフ歴は10年以上。オンライン葬儀相談セミナーなどを担当。