樒(しきみ)と仏教の関係とは?使われ方や榊との違いも

お葬式のマナー・基礎知識
樒(しきみ)と仏教の関係とは?使われ方や榊との違いも
樒(しきみ)とは、葬儀や法要などの仏事で使用される植物です。50cm程度の切り花は花屋などでも売られており、榊(さかき)とも似ていますが、全く違った種類です。仏教と密接な関係にあって、関西地方の葬儀で多く見られます。樒の基本情報と、仏教との関係性や葬儀での使われ方などを紹介します。

樒の基本情報

関西地方の葬儀でよく見かける樒(しきみ)。まずは植物としての特徴や名前の由来、香りといった樒の基本情報を説明します。

特徴

樒はマツブサ科シキミ属の常緑小高木(じょうりょくしょうこうぼく)で、高さ10m程度に成長します。別名「ハナノキ(花の木)」や「ハナシバ(花芝)」とも言われます。3月~4月頃になると、淡黄色の花を咲かせます。花言葉は「援助」「甘い誘惑」「猛毒」です。花言葉が示す通り、樒はすべての部分に毒を持っています。
また、樒は非常に日持ちします。長い間、枯れずに力強く生きる姿が、永遠の命(魂)を連想させる植物です。

名前の由来

“樒”という名前の由来は、有力な説が2つあります。
  1. 四季を通し、鮮やかな緑なので「しきみ」「しきび」と呼ぶようになった説
  2. 毒があるので「悪しき実」、略して「しきみ」と呼ぶようになった説

香りと用途

特有の強い香りも樒の特徴の1つです。お線香の原料のひとつであり、あの独特な匂いは樒であることが多いです。その香りから「香の花(こうのはな)」や「香の木(こうのき)」といった名前で呼ばれることもあります。お焼香の際に使う抹香は樒を原料に作ります。
強い香りと毒を持つ樒は「邪気を払う」「故人を悪霊から守る」と考えられてきました。そこで、お清めや悪霊除けに用いられることもあったそうです。強い香りを獣が嫌うため、土葬のお墓の近くに樒を植えて埋葬後の遺体を守ることもありました。

樒と仏教の関わり

鑑真(がんじん)が唐(現在の中国)より日本に樒を持ち込んだことから、仏教を示す植物となりました。こちらでは、樒と仏教の関係性を歴史から紐解いていきます。

鑑真が日本に樒を持ち込んだ

鑑真は688年に唐で生まれ、763年に日本でお隠れした僧侶です。14歳で出家し、洛陽・長安で修業を積んでいます。その後、仏教を広く伝えたいと考えた鑑真は、日本へ船で渡ることを決意しました。
しかし、当時の航海術は現在より劣るため、鑑真を乗せた船は渡航に5度も失敗しています。その過程で鑑真は視力のほとんどを失いましたが、6度目で渡航に成功。そして日本で仏教を広めています。そんな鑑真が唐から日本へ樒を持ち込んだこともあり、樒は仏教を象徴する植物となりました。

空海が修行で樒を使っていた

唐でおこなわれていた密教の修行では、青蓮華(しょうれんげ)を使用していたと伝えられています。青蓮華は蓮の花の一種とされ、仏様が住む世界に咲くと考えられている花のことです。
真言宗の開祖である空海(くうかい)は、唐で密教の修行をしていましたが、その青蓮華を入手できませんでした。空海は青蓮華の葉に樒が似ていることに着目。青蓮華の代わりに樒を使って修行していたそうです。一説によると、樒に“密”という文字が使われているのは、空海が“密”教の修行に樒を使っていたことが関係しているそうです。

日本でも樒を供える宗派がある

樒は冬でも鮮やかな緑色を保つことからも、さまざまな宗派の仏事に取り入れられています。例えば、先ほどご紹介した空海が開祖の真言宗をはじめ、日蓮正宗や浄土真宗などです。
日蓮正宗では、生花ではなく樒を仏壇やお墓に供えます。浄土真宗では、水を入れた華瓶(けびょう)に樒を挿し、仏壇に供えるのが定番です。

葬儀における樒の使われ方と、榊との違い

仏教とともに日本に浸透した樒。現代の葬儀における使われ方とともに、間違いやすい榊(さかき)との違いを解説します。

葬儀会場に飾られる

関西地方でおこなわれる葬儀では、葬儀会場の入口や寺の門前に樒を飾る様子が見られます。これは門樒(かどしきみ)と呼ばれるのが一般的ですが、大樒(おおしきみ)や樒塔(しきみとう)とあらわされることもあります。
門樒はある程度の設置スペースを必要とします。最近では、省スペースで済む紙樒や板樒を選び、門樒を省略することも。受付で一律の金額を払うことで、紙樒は紙に、板樒は板に名前を書いたものを葬儀会場の入り口に提示してもらいます。東大阪地方から始まった習慣とされています。
そのほか、導師机(どうしづくえ)に置かれる五具足の花立に樒を供え、葬儀会場内にある祭壇の両脇うしろには、樒を1本ずつ置いた二天樒を飾ります。これは入口2ヵ所、祭壇のうしろ2ヵ所の計4ヵ所に樒を飾ることで、結界を作って故人を守るという考え方です。

供花や花輪の代わりに贈られる

関西地方では「供花や花輪よりも樒の方が丁寧なお供え物」というのが共通認識です。そのため、供花や花輪の代わりに樒を贈る参列者が多く見受けられます。

祭壇などを飾る

祭壇は葬儀会場の正面に設けられた遺影やお供え物などを置いて故人を供養する場所です。従来は仏式の祭壇と言えば白木祭壇が定番でしたが、最近は生花や造花をたっぷりと飾る花祭壇(はなさいだん)の人気が高まっています。
樒は白木祭壇、花祭壇のどちらにも使われる植物です。日蓮正宗の葬儀では、樒以外の花を使用することは認められていません。

末期の水や枕飾りにも

樒は人が亡くなった直後から使用されることもあります。かつては、納棺をする際に棺の中へ樒を敷き詰める、または埋葬時に棺の上下に敷き詰めていました。
現代においても、葬儀前から樒を使うこともあります。臨終を告げられた後におこなう末期の水では、樒の葉を1枚使用して故人の口を水で潤します。ご遺体を安置する際に枕元に飾る枕飾りには、花立に1本の樒を挿します。

樒は仏式、榊は神式で使用される

榊(さかき)も樒と同じ常緑小高木で、葉は緑色です。一見すると似ていますが、両者は葉の厚みで見分けられます。葉を見たときに、分厚ければ樒、平べったければ榊です。生え方の密集具合は樒が上です。樒は香りが強いですが、榊はほぼ無臭なので、香りでも判別できるかもしれません。
これらの植物は利用される宗教行事も異なります。先述したように、樒は仏教と密接な関係にある植物なので仏事に、一方、榊は古くから神事に役立てられてきました。神式の葬儀では祭壇に榊が飾られます。
樒や榊のように、葉の先端が尖っている植物は、神が降臨する「依り代(よりしろ)」とされてきました。

樒の手配方法と相場、注意点

樒を遺族に贈る際の手配方法は、基本的に供花(きょうか・くげ)と同じです。手配方法と相場、樒が使用された葬儀における注意点を詳しく解説します。

手配方法

遺族に樒や供花を贈る際は、通常、葬儀を執りおこなう葬儀社に依頼します。通夜当日の午前中に供花や供物を祭壇に飾り付けることが多いため、それに間に合うように手配をします。
何らかの理由ですぐに動けない場合は、どんなに遅くても通夜が始まる2時間前には届くように手配をするのが理想です。通夜に間に合うよう、余裕を持って依頼をしてください。

相場

葬儀会場の入口などに飾る大きな門樒は、一対で安いものだと1万円から、高いもので3万円ほどが目安です。花輪の代わりとして贈る樒であれば、一対で5,000円~1万5,000円ほどが相場とされています。

注意点

冒頭で触れたように、樒には毒があります。特に実の毒性が強く、植物の中で唯一「毒物及び劇物取締法」において劇物と指定されているほど。誤って樒の実を食べると死亡する恐れがあるので、注意が必要です。葬儀場に樒が置いてある場合は、子どもが触れないよう、また誤って口にしないように細心の注意を払ってくださいね。

樒は仏事と深い関わりのある植物

鑑真が日本に伝えたと言われている樒は、現代においても主に関西地方の葬儀で多く使われている植物です。関西地方の葬儀に参列する際は樒を贈ることもあるので、事前に確認をした上で手配をし、故人を悼んでください。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当。