「尊厳死」という言葉を初めて聞く方へ
人はいつか死を迎えるものですが、それは自分が望む形ではないかもしれません。回復の見込みがない末期状態の場合、死期の引きのばしを目的とした延命措置を行わず、自然なプロセスとして死を受け入れること、つまり「尊厳死」に関する議論が近年、高まりを見せています。人間としての尊厳を保った状態で人生の幕引きの瞬間を迎えたいと考える人が増えているのでしょう。今回は尊厳死について、少し掘り下げて考察してみます。
尊厳死と安楽死の違いとは
「尊厳死」と似た意味で使われる言葉に「安楽死」があります。尊厳死は「消極的安楽死」ともいわれますが、人工的な措置をとらず「自然な死を迎えたい」という患者の意思を尊重する尊厳死と、「苦痛からの解放」から人為的に死をもたらす安楽死(積極的安楽死といわれています)は根本的に異なるものと考えられています。
人工的措置とは、具体的には人工呼吸や人工透析、胃ろう、中心静脈栄養といった栄養水分補給などの延命治療が含まれます。現在、日本には尊厳死や安楽死を規定する法律が存在しません。そのため、これらの治療を行わない、または中止するという決定や行為は、刑事告訴に発展する可能性をはらんでいるのです。
ただし、死を先延ばしにするだけの延命治療を拒否する権利は、憲法13条が規定する幸福追求権に含まれるという解釈があります。憲法を根拠に延命措置を拒否し、自然な死へと旅立つ尊厳死を認める判例も存在します。
近年では日本でもインフォームド・コンセントの考え方が広まりつつあり、医師が治療の目的や方法などを患者やその家族に説明し、最終判断を委ねる場面も見られます。そのような状況下では、患者自身の意思が最優先となるものです。
法律がない日本での尊厳死の宣言書って!?
終末期(治療をしても治癒の見込みがない、余命数週間から数カ月程度の時期)ともなると、患者自身「こうしてほしい」という意思表示が困難になります。そうなると、つらい選択を迫られるのは、ご家族です。事前にご自身の希望を明記しておくことで、ご家族の負担を少しは減らすことができるでしょう。
どのような形で伝えるかはさまざまですが、尊厳死を望む意思は「公正証書」として保管できます。それが「尊厳死宣言公正証書」です。本人が自ら尊厳死を望み、延命措置を差し控える、または中止する意思を書面に記録しておくのです。
「死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わない」「苦痛を和らげる措置は、最大限にする」「回復不能な持続的植物状態に陥った場合は、生命維持措置を取りやめる」「この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにしたもの」などがその内容となります。書類は公証役場に出向いて作成しますが、ご自宅や病院に公証人が出張することも可能です。その場合は作成手数料のほかに出張日当などの費用が別途かかります。
前述の通り日本には尊厳死に関する法律がなく、本人の希望通りになる保証は明らかではないですが、日本尊厳死協会によると「尊厳死の宣言書(リビング・ウィル)」の提示で、9割を超す医師がその希望を受容しているそうです。日本尊厳死協会でも、会員になることで宣言書を作成し、保管することができます(有料)。
エンディングノートがはじめの一歩に
自分の意思が明確な場合、公正証書や宣言書という形で残してもよいでしょう。しかし、ご家族も納得したうえでの作成が理想的ではないでしょうか。そこで積極的に活用したいのが、エンディングノートです。市販されているほとんどのエンディングノートには「尊厳死」についての考え方を問うチェック項目があります。加えて、介護に関する希望を記載する欄も設けられています。
人間らしく生きる尊厳を奪うのは、死にまつわる現実だけではありません。認知症の症状が進むと、思考や判断能力が低下するだけでなく、やがては意思疎通も困難になります。介護が必要になったとき、どこで誰に介護してほしいか、また、認知症を発症した場合の財産管理は誰に任せるのかなどをエンディングノートに書き記すことで、ご家族の判断もいくぶんかスムーズになるでしょう。家族葬のファミーユでは、事前相談にいらした方に「未来ノート」という終活ノートを差し上げています。そのうちの「病気や介護」の箇所をご紹介しましょう。
左図のように簡単なチェック方式となっており、ちょっとしたメモ書きや追記ができるように余白も多めです。ご家族にかける負担を詫びたり、感謝を述べたりするなど自分の気持ちや気になることを自由に書いてかまいません。そしてご家族同士で共有するなど、コミュニケーションツールとしての活用もおすすめです。死は遠い先の話と思っていても、私たちの人生は死と隣り合わせであることに変わりはありません。人生の最後の日まで尊厳をもって生きたい、と願う人が大半ではないでしょうか。死への準備をするということは、良い人生を送るということである、と言ったのはロシアの作家トルストイです。そんな切り口からご家族や周囲の方々と、終活にまつわる会話を交わしてみてはいかがでしょうか。家族葬のファミーユでお配りしている終活ノート「未来ノート」に興味がある方は、家族葬のファミーユのフリーダイヤルまでお気軽にご相談ください。メールでのお問い合わせ・資料請求(無料)はこちらのフォームからどうぞ。
日々摘花(ひびてきか)
~まいにちを、たいせつに~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について自らの体験に基づいたヒントをいただくインタビュー記事です。
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