「最後の最後までエンターテインメントを」小林幸子さん【インタビュー後編】~日々摘花 第22回~

コラム
「最後の最後までエンターテインメントを」小林幸子さん【インタビュー後編】~日々摘花 第22回~
「日々摘花(ひびてきか)」は、様々な分野の第一線で活躍する方々に、大切な人との別れやその後の日々について、自らの体験に基づいたヒントをいただく特別インタビュー企画です。

本編は、第22回のゲスト、小林幸子さんの後編です。
公式YouTubeチャンネルの登録者数は12.6万人(2022年4月現在)。歌手として60年近くのキャリアを築きながら、動画配信、ボカロ曲のカバーなど新たな挑戦を続ける小林さん。前編ではご両親とのお別れや、「永遠の別れ」との向き合い方に変化を与えたある映画についてお話しいただきました。後編では、ご自身の死生観や葬儀についてのお考えをうかがいます。

小林幸子はYouTuBBA!!(ユーチューババア)

−−小林さんは「死」というものをどのように捉えていらっしゃいますか?

小林さん:あまり意識したことがありませんが、死は必ず訪れる、ということはわかっています。だからこそ、死について思い悩むのではなく、死ぬまでに何をやろうかと考えたいですね。だって、いつ生まれるかを自分で決められないのと同じで、いつ死ぬかは誰にもわからないもの。生きているだけで儲けもの。せっかく生きているのなら、どんなことでも面白がって生きたいです。面白いことは、年齢に関係なくできると思うんですよ。

−−説得力のあるお言葉だと感じます。『おもいで酒』を発売時にリアルタイムで聴いた世代としては、ネット動画に出演したり、ボカロ曲を歌う小林さんの姿を40年後に見るとは想像していませんでした。

小林さん:私だってそうです(笑)。ネット動画との出合いは、2012年10月に「ニコニコ動画」で生配信をしたのがきっかけでした。「新曲『茨の木』のプロモーション番組をやりませんか?」とお声をかけていただいたのですが、当時の私はインターネットについて何も知らず、事務所のスタッフから最初に提案を受けた時、頭の中はクエスチョンマークでいっぱいでした。

でも、「それって面白い?」とスタッフに聞いたら、相手が間髪入れず「面白いですよ!」と答えたので、「だったら、やってみようじゃないの」と思ったんです。収録中、司会の方から「“ラスボス”と呼んでいいですか?」と聞かれ、よくわからないまま「いいですよ」と答えたら、画面に「ラスボス」だとか「降臨」だとか文字がいっぱい流れてきて驚きました。

後で「ラスボス」はゲームの最後に登場する悪いヤツのことだと知り、苦笑いしましたが、何だか面白くなってきちゃって。自分でも動画投稿を始めたり、ボカロ曲を歌ったり、この10年、それまで以上にいろいろなことをやってきました。挙句の果てに、昨年秋にリニューアルした私の動画チャンネルについたタイトルが「小林幸子はYouTuBBA!!(ユーチューババア)」(笑)。スタッフから提案があった時、思わず吹き出してしまいました。

「さっちゃん」、「幸子さん」、「ラスボス」。親子三世代からのエール

−−街を歩いていて、若い人たちから「ラスボス」と呼ばれることもあるそうですね。

小林さん:私から呼んでくださいとお願いしたわけじゃないんですけどね(笑)。58年間歌わせていただいて、デビュー当時から応援してくださってる方には「さっちゃん」、『おもいで酒』以降の世代の方々からは「幸子さん」と呼ばれることが多いです。そして、今ではコンサートでも「ラスボス!」と声がかかるようになりましたが、呼び名は皆さんのもの。何と呼ばれようと、皆さんに楽しんでいただけているなら本望です。

ありがたいことに親子三世代で応援してくださる方たちもいて、一番上の世代は80代から90代。もしかしたら、100歳を超えている方もいるかもしれません。そうした先輩世代の方々に何かできたらと思っていた時に、介護つき老人ホームの利用者の方々に向けて「動画配信で歌っていただけませんか?」という依頼があり、初めてのことでしたが、やらせていただきました。とても喜んでいただけたと聞いて、すごくうれしかったですね。これからも少しずつ恩返しをしていけたらと思っています。

−−「人生100年」と言われる時代、今後についてイメージはお持ちですか?

小林さん:昔からずっとそうだったのですが、何も考えてないんですよ、私。「ニコニコ動画」をきっかけに若い方々にも話題にされるようになり、「よく時代を読みましたね」と驚かれたりもしましたが、時代なんか読めません。ただ、アンテナを引っ込めないでいたら、人と人とのつながりで新しいことをやるチャンスをいただけたりするんですよね。だから、これからの人生も結構面白いはず、と思っています。

余計なものは「読まない」「見ない」「聞かない」

−−葬儀についてのお考えもお聞かせいただけますか。

小林さん:本名の「林幸子」としては、身近な人たちだけで集まって見送ってもらいたいです。一方、「小林幸子」としてはものすごく派手な葬儀が理想。会場の飾り付けや照明も思いっ切り華やかにして、来てくださった方が盛り上がれる内容にしてほしいです。

世間話のついでにスタッフにそんな話をしたら、張り切ってしまって、「目一杯派手なことをやって、炎上しましょうよ」ですって(笑)。炎上は遠慮させていただきますが、わざわざいろいろな人が足を運んでくださるなら、エンターテイメントにしたい。最後の最後まで皆さんを楽しませたいです。ただ、エンターテイメントをやるとなれば、私も死んではいられないですね。

−−生き返って、歌っていただかないと困ります(笑)。最後に、読者に贈る言葉をお願いします。

小林さん:「人間万事塞翁が馬」です。人間、いいことばかりじゃない。でも、決して悪いことばかりでもない−−68年生きてきて、本当に「なるほど」と思います。私の人生もまさにそうで、鳴かず飛ばずで歌手をやめようと考えた時期もありましたし、事務所をめぐるありもしない話がひとり歩きし、「冗談じゃない」と思ったこともあります。だけど、暗い気持ちにエネルギーを費やすのはバカらしいと思って、前だけを見るようにしました。そんな時に出合ったのがネット動画やボカロでした。

インターネットで情報が簡単に手に入る便利な時代だけに、不必要な情報が耳に入り、傷つく人も増えているのではと思います。理不尽なことが起きたら、悔しいと思うのは当然です。でも、そんなことに引きずられる時間がもったいないですよね。だから、余計なものは「読まない」「見ない」「聞かない」。自分を信じるしかない、と思います。

~EPISODE:追憶の旅路~

人生でもう一度訪れたい場所はありますか?
生まれ育った場所が今も残っていたら、そこに帰りますが、もう跡形もありません。だから、人生の最後に訪れたい場所はないですね。住みなれた我が家がいいです。大好きな猫たちと一緒にいたいですね。あ、夫も仲間に入れてあげようかな(笑)。

愛猫のお写真

「生まれた時から猫と一緒に暮らし、猫のいない生活は考えられない」という小林さん。実家の精肉店では「商売繁盛につながり、縁起がいい」と常に猫を飼っていた。現在一緒に暮らすのは、夫からプレゼントされたアメリカンショートヘアのジャコ助くんとラグドールのコウの助くん。

プロフィール

【誕生日】1953年12月5日
【ペット】猫のジャコ助(♂・8歳)とコウの助(♂・6歳)
【経歴】新潟県新潟市生まれ。64年、『ウソツキ鴎』で歌手デビュー。79年、『おもいで酒』が200万枚を超える大ヒットとなり、日本レコード大賞最優秀歌唱賞をはじめ数々の賞を受賞。同年、NHK紅白歌合戦に初出場し、以来、34回出場。舞台、テレビドラマ、声優、バラエティなど多方面で活躍し、近年はニコニコ動画などで若い世代からも支持されている。

Information

小林さんの公式YouTubeチャンネル「小林幸子はYouTuBBA!! (ユーチューババア)」。「初めてのスタバ新作! コーヒー飲み比べにチャレンジしてみました!」「初めてのポケモンUNITEをやってみた!【ゲーム実況】」など素顔の小林さんに触れられる内容。「おうち時間の多い皆さんに、ちょっとでも笑ってもらい、テレビなどでは見れない『小林幸子』をもっと知ってもらい、『YouTuBBA』が楽しんでる姿をお届けできたらと思います」と小林さん。
また、昨年小林さんがカバーし、同チャンネルで20万回以上の再生回数を記録したダンス&ボーカルグループ「Da-iCE」の楽曲「CITRUS」の小林幸子バージョンが配信シングルとしてリリースされ、好評だ。
■「CITRUS (シトラスボスVer.)」
配信先リンク https://avex.lnk.to/0318_KS_CITRUS
(スタイリスト/井上正子 ヘアメイク/沖田奈々)
(取材・文/泉 彩子  写真/鈴木 慶子)