小島慶子さん×志村季世恵さんによるトークイベント『日々摘花~一緒に生きていく~』開催レポート【前編】

コラム
小島慶子さん×志村季世恵さんによるトークイベント『日々摘花~一緒に生きていく~』開催レポート【前編】
Coeurlien(クリアン)では毎月、著名人が大切な人との別れを語るコラム連載『日々摘花(ひびてきか)』をお届けしています。今回そのスピンオフ企画として、初めてのオンライントークイベントを実施しました。

参加者の質問や相談に、タレントの小島慶子(こじまけいこ)さん、セラピストの志村季世恵(しむらきよえ)さんが答えるイベントの様子を3回にわたってお伝えします。この記事は、前編・中編・後編とある中の、前編です。

見送った大切な人との日々を温かく思う明日のために

小島さん:本日はイベントへのご参加ありがとうございます。つらいとか、悲しいとか、温かい思い出とか、色々お気持ちの方が集まっていると思います。

今日のテーマは「見送った大切な人との日々を温かく想う明日のために」です。見送る時は、いろいろな想いがあり、見送ってしばらくの間は、なかなか立ち直れないと思います。いつか温かい気持ちで、見送った方の事を思い出せる日が来たらいいな……という願いを込めたテーマになりました。

私と季世恵さんのご縁はもう20年ぐらい前になります。当時、私はTBSのアナウンサーでしたが、暗闇を体験するツアー「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」をTBSが協賛していまして。素晴らしい体験型のミュージアムで、私もファンになりましたが、実はそのプログラムを日本に導入されたのが、志村季世恵さんと、パートナーの真介さんご夫妻でした。
注)「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とは、1988年にドイツで生まれたイベントで、視覚障碍者のアテンドで暗闇を体験するエンターテインメント。1999年に日本初上陸。
小島さん:季世恵さんはセラピストであり、東京の竹芝という所にある「ダイアログ・ミュージアム」という暗闇の中を旅したり、音のない世界を旅したり、年齢を重ねた人と対話をするという素晴らしい体験のできるミュージアムの代表も務めています。

暗闇の中や音の無いところに行くと、自分との対話をする機会にもなります。そういった自分と向き合ったり、生と向き合う、死と向き合うという瞬間を、本当に大切にされているのが季世恵さんです。様々な別れ、痛みも経験されていらっしゃいますので、そんなお話も伺いながら、今日は皆さんからいただいたご質問にお答えしていければと思います。

志村さん:事前にご質問を沢山いただいたんですよね。ほんとに皆さんのいろんな気持ちを拝見していて、ちょっと胸が詰まるような気持ちになりました。
小島さん:まず最初に、季世恵さんがなぜセラピストになられたのか伺ってもよろしいですか。

志村さん:私、高校時代に大学病院の放射線科でアルバイトをしてたんです。昔の放射線科って、亡くなる方たちのちょっと手前のところにあるような場所でした。緩和ケアとも少し違うけれど、“先”を考えなければいけない方たちの話相手が多かったんです。

私は子供の頃から家族の看取りをいくつか経験していましたので、終末期にある方たちのお話を伺うことや私のひと言が、皆さんの勇気や安定につながったようです。そこからセラピストとしての道が自然とできたような気がしています。亡くなった前夫が医療関係だったことも関係しています。

小島さん:亡くされた前のパートナーの方は、事故で突然亡くなって、ゆっくりお別れを言うこともできなかったそうですね。

志村さん:娘と一緒にダイビングに行った翌日、娘から電話がかかってきました。「お父さんが意識をなくしてドクターヘリで運ばれている最中なんだ」って。駆けつけた時にはもう亡くなっていて、冷たくなっていたので……本当に突然でした。

周囲の慰めは、響かないときもある

「ある朝パートナーは突然死し、唐突な別れとなりました。1年半経ったものの後悔の思いしかありません。周囲の慰めの言葉も受け入れられません。どうしたらいいでしょうか」

小島さん:事前にいただいたご質問の中にもこのようなものがありました。
志村さん:周りの方たちの慰めって、ご自身の中で響くときと、響かないときがありますよね。

私は、亡くした夫のことを思い出すようにしていました。どんな言葉を彼が残していたか、どんなことを大切にしてたか。夫の遺してくれた色んな経験や思いを、私自身に引き寄せた時に、だんだんそれが慰めに変わっていきました。自分にしかわからないことだと思うんですけど。

なので、できれば亡くなったパートナーの笑顔や良かった部分を思い出して、この部分は自分も大切にしていきたいなっていうバトンのようなものを受け取れたら、どうかなと思います。ゆっくりでいいので。だんだん、それができる時が来るんだろうと。自分自身もそうですが、皆さんのグリーフケアをしていても感じます。
小島さん:お連れ合いを亡くされたということで、私は思い出した方がいます。

昔、ラジオ番組をやってたんですけど、夜の……今から20年以上前のことです。生番組なのでメールやFAXがいっぱい来て。ある日、いただいたメールが本当に忘れられなくて……。このような話です。
「妻が急に亡くなりました。自分は仕事しかしてこなかったので妻のことを何にも知りません。今は子どもが離れて一人で暮らさなくてはならず、料理も自分でするしかない。だけど、妻が全部やっていたのでどこに何があるかすらも、料理のやり方もわからない。

忙しかったから、妻がどんなことを話してたかと思い出そうとしても、その記憶がない。唯一覚えていたのが妻の料理の味だったので、包丁を握って料理を始めました。

死別から1年ぐらいたって、作った料理を子どもに食べてもらったら、『あ、これお母さんの味だね』って。

その時にやっと妻の死を受け入れることができて……、何か妻に会えた気がしたし、妻は自分の中にちゃんと生きているんだって思えました」
当時20代の私に長いメールで、こう打ち明けてくださったんですよ。

志村さん:そうでしたか。

小島さん:未だに忘れられなくて……。なぜ、ラジオ越しの私にこんな大切な話を打ち明けてくださったのかなって。でもその距離だから、むしろ打ち明けやすかったのかも知れませんね。当時はその方の気持ちはなかなか実感できませんでした。私も3年前に父を突然亡くしたのですが、父との記憶ってそんなにはないんですよね。それが、3年も経つとちょっとずつ思い出されてきたりしています。不思議ですね。

2度と会えないことを悔やむほど、愛していた

志村さん:思い出はふっと出てくるんですよ。最初は「何を」というのは、なかなか思い出せないと思います。でも、このご質問で思ったのは、それだけ愛していたこと。

1年半経ってもいろんな気持ちがあるというのは、それだけの気持ちが残ってるんです。それは記憶にあるかないかではなくて、「愛が残っている」。それが一番のお気持ちです。それほどお互いが愛し合ってたことは、大切な次につながることかなと思います。

小島さん:思い出すと悔やまれることもあると思います。あの時「ああ言ってあげればよかった」とか「もっとこうしてあげればよかった」とかって。でも、つらいじゃないですか。もう会えない人に対して、どうやって悔やむ気持ちとつき合っていけば良いでしょう?

志村さん:「悔やむ気持ちが持てるほど愛してたんだな」と思うことかなと。

何事もなかったら、それほどまでには感じないでしょう。後悔するほど、自分はその人が好きで愛していた、今も愛している。そんな人と出会ったことは、今は痛みかもしれないけど、やがては尊さだったりとか、自身の大きな糧になると思うんです。

私も未だに後悔っていっぱいあります。父が亡くなってから35年以上経つんですけど。私が21歳のときに「あと3週間です。末期のガンです」って言われて。

あれよあれよという間に亡くなりました。告知もできなかったんです……。自分たちが受け入れられなくて。その後に後悔しました。どうして言ってやれなかったのか、と。

今になって考えると、また違う答えが出てくるけれど、その時は最大限に考えた結果でした。ただ、後悔する自分のことも含めて、皆さんも今、亡くされた方を大切に思ってることに気が付いてもらえたらなって思います。

小島さん:見送った方の中に、つらい思い出のある相手もいると思うんです。亡くなった人にわだかまりがある、許せない、そういう遺恨を残して、苦しまれてる方もいるかと思うんです。

「亡くなった人にそう思ってしまう自分って、何てひどいんだろう」、「でもやっぱり思い出しても、許せない」とかね。そういう苦しみは、どうすればいいんでしょう? 亡くなった後では、もう修復もできない。
志村さん:そういう時って、自分のことすらも嫌になっちゃうんですよね。もういいじゃない、忘れればって思うんだけれど……。

ただ、「そこまで自分のことを駆り立てるものは何だろうか」って考えて、そこに目を向けると、大きな気付きがあるかもしれません。裏切られたような思いや、自分が大切にしているものが相手はそうでなかったとわかったり。憎しみの念を解く糸口がちょっと見つかるかもと思います。

小島さん:例えば、「亡くなったAさんが憎い、許せない」と思ってしまうとしましょう。でも単に憎むだけじゃなくて、その理由を考えると、 「私は家族を大切にしていたのに、Aさんが家族を傷つけたから許せないんだ」ということに気づいた。だけど、もうAさんとの関係は修復できない。「ならば、家族を大切にしよう」ということでしょうか。

「自分が誰を憎んでいるか」ではなくて、「何を大切にしているか」に目を向けて、それを大事にして生きていこうって思えばいいということですか?


志村さん:本当にその通りだと思います。ちょっと視点をずらすと、そこに新しい道が見つかるかもしれない。そう考えてみたらどうかなと。

小島さん:誰かを見送ることは、自分とたくさん対話することにもなるのですね。

イベント概要

『日々摘花(ひびてきか)~一緒に生きていく~』は、2021年11月26日にオンライン(Zoomウェビナー)で開催しました。タレントの小島慶子さんとセラピストの志村季世恵さんによる、家族を亡くした人に寄り添うトークイベントです。

【出演者のプロフィール】

小島慶子(こじまけいこ)さん / タレント、エッセイスト
95〜10年TBSアナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。独立後は各種メディア出演、講演、執筆活動を幅広く行なっている『AERA』『日経ARIA』ほか連載、著書多数。 2018年に亡くした父は完璧なエンディングノートを残した。

志村季世恵(しむらきよえ)さん / バースセラピスト
心にトラブルを抱える方のカウンセリングをおこなうセラピスト。独自のターミナルケアの方法は多くの医療者から注目を浴びている。1999年よりダイアログ・イン・ザ・ダークの理事。22歳で父を亡くし、夫を子どもたちと見送った経験もある。