黄檗宗とは日本三禅宗の宗派の一つ。教えや葬儀マナーを解説

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黄檗宗とは日本三禅宗の宗派の一つ。教えや葬儀マナーを解説

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黄檗宗とはどんな宗派か知りたい
黄檗宗の葬儀について知りたい
黄檗宗(おうばくしゅう)とは、中国から伝来したとされる伝統的な宗派で、臨済宗・曹洞宗と並び日本三禅宗の一つに数えられています。3つの禅宗のなかでも中国式の考えが強く残っているのが特徴で、葬儀の流れやマナーにも他の宗派との違いが見られます。この記事では、黄檗宗の教えや歴史、葬儀の流れ、葬儀のマナーを解説します。

黄檗宗の概要と特徴

黄檗宗は禅宗という仏教の宗派の一つで中国式の教えが強いのが特徴です。黄檗宗とはどんな宗派なのか、その特徴やお経、教えを紹介します。

日本三禅宗の一つ「黄檗宗」とは

黄檗宗の読み方は「おうばくしゅう」です。日本仏教のなかでも伝統的な13宗派に含まれ、臨済宗・曹洞宗と並ぶ日本三禅宗の一つとされています。
禅宗とは、禅を重んじる宗派の総称です。禅には「精神を統一して真理を追究する」という意味があり、主に座禅修行などをおこなっています。
臨済宗や曹洞宗については、こちらの記事で紹介しています。

中国式の考えが強く残っている宗派

黄檗宗は、江戸時代頃に中国から伝えられました。当初は臨済宗の一派とされていましたが、その後独立し黄檗宗と改宗しました。同じ禅宗でも、既に日本に伝来していた臨済宗や曹洞宗と比べると、中国式の考えが強く残っているのが特徴です。
例えば、黄檗宗のお寺は中国明朝形式で建てられたものが多く、日本の他のお寺と比べるとカラフルな外観をしています。仏具も中国式のものが多いです。

お経は般若心経が基本

特徴①日本語ではなく唐音(とういん)で読経する
黄檗宗の葬式などであげるお経は、仏教の代表的な経典である「般若心経」が基本です。
唐音とは、漢字の中国式の読み方「音読み」の一種で、唐末または宋代以降に黄檗宗などの禅僧によって日本に伝えられました。「摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみたしんぎょう)」を唐音で唱えると「ポゼポロミトシンキン」となります。
特徴②梵唄(ぼんばい)がある
四拍子のリズムを刻みながら歌うように読経することを梵唄と言います。黄檗宗の法要は、梵唄に合わせて木魚や銅鑼・太鼓といった鳴り物を使用し、賑やかな雰囲気でおこなわれます。また中国では床に座る習慣がないので、立って読経するのも他の宗派と異なる点です。

「行」を重んじ、自分の心と向き合って悟りを開く

黄檗宗では、人は生まれつき悟りを持っているとする「正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)」の考えが重んじられています。その悟りを開くためにも、自分自身の心と向き合うのが大事であるとされ、修行においては経典を数多く読むことより、座禅などの「行」が重視されています。
また、「己身の弥陀(己心の弥陀)・唯心の浄土(こしんのみだ・ゆいしんのじょうど)」という教えも。これは、阿弥陀仏や極楽浄土は、自分自身の心の中にいる、あるという意味です。
考えるほどに深みのある教えですが、平易にすれば、誰か他の人のことよりもまず自分のことを考え、自身の人生をどう生きるかを大切にしなさいということと受け取れます。

中国から京都へ伝わった黄檗宗の歴史と現在

黄檗宗は中国から伝来し、現在では京都に大本山とされるお寺があります。開祖とされる中国僧・隠元隆琦(いんげんりゅうき)の歩みや現在の大本山「萬福寺」と、萬福寺にある本尊について紹介します

開祖・隠元隆琦の歩み

黄檗宗の開祖とされているのは、1654年に日本に来た中国僧・隠元隆琦禅師です。臨済宗を代表する費隠通容(ひいんつうよう)禅師の法を受け継いだ高僧で、福建省にある「黄檗山萬福寺」の住職となり多くの弟子を育成していました。
日本に来たのは隠元隆琦禅師が63歳の頃。日本からの度重なる招きに応じて、弟子20名他を伴って長崎に来航します。その後は後水尾法皇と将軍徳川家綱の庇護のもと、1661年に中国の自坊と同じ名を付けた「黄檗山萬福寺」を京都の宇治に建立。3年間住職を務めたのち、松陰堂に隠居しました。

大本山は京都「萬福寺」

黄檗宗の大本山は、先述の通り隠元隆琦禅師が京都府宇治市に建立した黄檗山萬福寺(黄檗宗大本山「萬福寺」)です。中国明朝様式を取り入れた、左右対称の伽藍配置で造られているのが特徴的なお寺です。現在も創建当初の姿のまま残っていて、国の重要文化財にも指定されています。

本尊は「お釈迦さま」

「萬福寺」の本堂にある本尊は釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)で、いわゆる仏教の開祖とされる「お釈迦さま」です。釈迦の十大弟子となる摩訶迦葉(まかかしょう)と阿難陀(あなんだ)が脇侍として安置されています。

黄檗宗の葬儀の流れ

黄檗宗の葬儀は、お寺によって細かな違いはあるものの、基本的に禅宗の作法に従っておこなわれます。禅宗の葬儀の内容を流れに沿って紹介します。

①授戒

授戒とは、仏弟になるための儀式のこと。黄檗宗の葬儀においては剃髪(ていはつ)したのち、懺悔文(ざんげもん)、三帰戒文(さんきかいもん)、三聚浄戒(さんじゅうじょうかい)を僧侶が唱えます。主に下記のような流れでおこなわれます。
  1. 剃髪:僧侶の出家儀式と同じように、故人の髪を剃るしぐさをする
  2. 懺悔文:生前の罪を反省し、懺悔する
  3. 三帰戒文:仏の教えを受け入れ、修行者となることを誓う
  4. 三聚浄戒:仏の戒めを守り、不殺生などを授ける
※このときに導師が法性水を位牌や棺などに注ぐ「酒水灌頂(しゅすいかんじょう)」をする

②入龕・鎖龕・起龕仏事

龕(がん)とは棺を指す言葉で、それぞれ読経や回向文を読み上げながら、下記のようなことをおこないます。
  • 入龕(にゅうがん):遺体を棺に納める
  • 鎖龕(さがん):棺のふたを閉める
  • 起龕(きがん):棺を家から式場などに送り出すために持ち上げる
なお近年の葬儀では、棺は既に葬儀場などに安置されていることが多いため鎖龕や起龕は省略するケースが増えています。

③秉炬仏事・引導法語

禅宗において、火葬の際に棺に火をつける儀式を秉炬(ひんこ)と言います。元は遺体に松明を投じて火をつけていましたが、現代では松明を模した仏具を用いて法語を唱えることが多いです。故人を仏世界に導き、安楽に導く目的でおこなわれるため、このとき唱える法語を「引導法語(いんどうほうご)」と呼んでいます。
お寺によって異なる部分もあるので、詳細は葬儀を依頼するお寺や葬儀社に確認するのがおすすめです。
「引導」については、こちらの記事で紹介しています。

中国式が色濃く残る黄檗宗の葬儀作法とマナー

服装や焼香については一般的な仏式の葬儀と同じですが、用意する香典や数珠、振る舞われる精進料理には他の宗派との違いが見られます。黄檗宗の葬儀における作法やマナーを紹介します。

香典

香典袋の上書きは、他の宗派では四十九日までは「御霊前」、四十九日後の法事では「御仏前」とすることが多いですが、禅宗でも同様に使い分けることが一般的です。

数珠

禅宗の葬儀では、108個の玉と親玉を繋いだシンプルな看経念珠(かんきんねんじゅ)が正式念珠とされています。特に黄檗宗で用いる看経念珠は、10個ごとに記子(きし)が付けられているのが特徴です。どの宗派でも対応できる略式念珠もありますが、なるべく宗派に合わせて用意するのが望ましいです。

精進料理

精進落としの際に振る舞われることの多い精進料理も、黄檗宗では中国式の普茶(ふちゃ)料理が用意されます。「普く(あまねく)大衆に茶を供する」というのがその名の由来で、茶でもてなすという意味があります。
普茶料理では山野に生まれた自然の産物が多く使われていて、彩り鮮やかです。席に上下の隔たりはなく、座卓を皆で囲み大皿料理を分けるという中国式の作法で食べます。

黄檗宗の教えや葬儀マナーを知り、故人の冥福を祈ろう

黄檗宗ではさまざまな場面で中国の様式ややり方が残っていて、葬儀に参列する際に戸惑うことがあるかもしれません。しかし死後の世界での故人の安寧を祈る気持ちは、どの宗派でも同じです。基本の流れや作法を押さえつつ、細かい流れやマナーについて不安がある人は、地域のお寺や葬儀社にも相談してみてください。

この記事の監修者

瀬戸隆史 1級葬祭ディレクター(厚生労働省認定・葬祭ディレクター技能審査制度)
家族葬のファミーユをはじめとするきずなホールディングスグループで、新入社員にお葬式のマナー、業界知識などをレクチャーする葬祭基礎研修などを担当